イギリス政府の

カナビスの再分類議論は的外れ

Source: Medical News Today
Pub date: 02 Nov 2007
Subj: Cannabis Reclassifcation Debate Could Distract UK Government From Communicating Risks Of Use
Web: http://cannazine.co.uk/content/view/2584/1585/


ランセットの今週号に掲載された投稿(コレスポンデンス)で、著者たちは、現在行われているイギリス政府のカナビス再分類議論が的外れで、カナビス使用のリスクについて衆知徹底するというもっと重要度の高い仕事が置き去りにされていると指摘している。

この投稿を寄せたのは、オーストラリア・サウスウエールズ大学国立ドラッグ・アルコール研究センターのルイス・デジャンハード教授とクイーンズ大学のウェイン・ホール教授らで、カナビス使用と精神病の関連を示す強いエビデンスが増えているとした7月のランセット・エディトーリアルに対する意見とともに、2004年に行われたイギリス政府のカナビスのB分類からC分類へのダウングレード決定を評価する見方を示している。

その上で、今回の再分類議論について 「カナビスと精神病の関係について焦点を当てようとしていることは理解できるが、そのために、もっと頻繁に見られる別の健康問題への関心が置き去りにされる結果になっている」 と書いている。

著者たちは、カナビスを再分類して罰則を強化すればカナビスの使用が減るはずだという現在のイギリス政府の暗黙の仮定に疑問を投げかけている。その理由として、オーストラリアでは州や地域によってさまざまに異なった罰則を定めているが、カナビスの使用率には目立った違いがないことを上げている。「オーストラリアでのこうした結果は、罰則の大小よりも、社会への接し方や予見される害行為といったことのほうがより重要な要因になっていることを強く示唆している。」

「イギリス政府の刑事罰の強化という議論は、精神病とは別のもっと普通の使用リスクについて衆知徹底するという課題を見えなくしてしまうという危険性をはらんでいる。刑罰を強化することの影響や悪影響やその程度ついてはもっと研究する必要がある。カナビス使用に伴う公衆衛生問題を一片の法律の書き換えで解決できるという思い込みは、イギリス社会に誤りをもたらすに違いない。」

今週のランセットには、この投稿の他にもカナビスと精神病について書かれた投稿が4通掲載されている。

今回の投稿:
UK classification of cannabis: is a change needed and why? Louisa Degenhardt, Wayne D Hall, Amanda Roxburgh, Richard P Mattick The Lancet - Vol. 370, Issue 9598, 3 November 2007, Page 1541

イギリスでは、ブラウン内閣が発足して間もなくカナビスの分類をCからより厳しいB分類に戻すかどうかを検討する決定を下しているが、その数週間後にランセットからカナビスと精神病についてのメタ分析研究は発表された。早速デイリーメール紙は、「カナビスのジョイント1本でも吸えば、精神病のリスクが40%増える」 とするセンセーショナルなヘッドラインを掲げて、政府のカナビス分類見直しを後押した。

その後、このヘッドラインは一人歩きを始めて論文の内容の誇張が広がり、分類見直し議論に拍車をかけることになったが、今回の投稿はこうした展開にバランスを取るためにランセット側が配慮したのではないかという一面も感じられる。

イギリス・ブラウン首相、カナビスの分類再見直しを表明  (2007.7.18)

しかしながら、ブラウン内閣の見直し発表には直後から専門家に疑問の声が上がり、ランセット論文についても分類見直し議論をするような新しい材料にはならないという意見が多く出された。

専門家、カナビスの分類変更に反対、イギリス政府の罰則強化策には科学的根拠なし  (07.27)
データを曲解し誇張するカナビス報道、カナビスと精神病をめぐるランセット論文  (2007.7.28)

その後も、分類見直しの理由とされた高効力スカンクの広まりが、実際には起こっていないことが研究で明らかになり、また、北ウエールズ州警察本部長の禁止政策批判や上院でのドラッグ政策批判などが相次ぎ、政府の見直し議論に疑問が投げかけられている。さらに、最近では、ダウングレード後からカナビスの使用率が減少を続けていることも報告されている。

イギリスの2研究、高効力スカンクの蔓延説を全面否定  (2007.9.17)
イギリス北ウエールズ州警察本部長、禁止政策は実効的でも道徳的でもない  (2007.10.10)
イギリスのカナビス使用、ダウングレード後の減少が続く  (2007.11.1)
Lords savage drug strategy consultation, and debate prohibition  (2007.11.2)

もともと再分類議論は、ブラウン首相が総選挙目当てに保守党の主張を丸飲みするかたちで出してきたと見られている。

実際、2005年にもカナビスの分類見直しが行われたが、その時もブレア政権が総選挙を控えて、ドラッグ乱用諮問委員会(ACMD)に対して分類を戻すべきかどうかを諮問している。この選挙を取り仕切ったのが当時のブラウン蔵相だった。(イギリス 、政争の具にされた精神病問題

今回も、前回の総選挙の成功体験がブラウン首相の頭にあったのではないか? 6月末のブラウン内閣の発足当初は支持率も高く、早々に総選挙を実施しても勝てるという見方が有力で、厳しいドラッグ政策をアピールすることで保守党の攻撃をかわす狙いがあったと思われる。首相は、9月末の党大会でも選挙に自信を見せていた。

だが、10月に入ると保守党の支持率が上がっていることが報じられると、首相は一気に弱気になって総選挙の年内実施を見送る方針を発表する状況に追い込まれた。選挙への動機が失われると同時に、不利な現状報告や批判にさらされているカナビスの再分類議論も急速に色褪せて説得力を失ってきた・・・?