イギリスのカナビス再分類問題

政府の諮問委員会無視に非難の嵐

Source: The Independent Sunday UK
Pub date: 20 Jan 2008
Subj: Cannabis experts lash out at ministers for ignoring advice
Author: Brian Brady and Jonathan Owen
http://cannazine.co.uk/content/view/3487/1585/


イギリス政府は、カナビスをC分類からより厳格なB分類へ戻すべきかどうかをドラッグ乱用問題諮問委員会(ACMD)に諮問しているが、委員会の中心メンバーたちからは、政府が最終的にどのような決定を下すつもりなのかをマスコミに 「故意にリーク」 しているとして、猛烈な非難が巻き起こっている。

政府は、委員会の答申前にどのような意向を固めているかを漏らしてはならないルールになっているが、ACMDのメンバーで、オックスフォード大学の薬理学者でもあるレスリー・アーバンセン教授は、政府がルールを無視して意図的に情報をリークいるとして、「委員会の答申がどのようなものであれ、政府が分類を戻す意向を固めているという報道には不快感を覚えます」 と語っている。

「ACMDが分類を変更すべきではないという答申もあり得ますが、もし内務省がそれと逆の決定を下したとすれば、かつてなかった初めての事態で、諮問委員会の果たすべき役割と将来のあり方について論議を呼ぶことになります。」

今回の非難の嵐は、委員会の報告書の答申を数ヶ月先に控えて、ゴードン・ブラウン首相とジャキー・スミス内務大臣がすでにB分類に戻すことに決めているという情報が流れた直後に起こった。現時点ではまだ答申内容がどのようになるか分かっていないにもかかわらず、政権内部の大臣たちは、スミス大臣が諮問委員会の答申を却下する準備を進めていることを明確に認めている。

現在、カレイドスコープ・ドラッグ乱用チャリティを運営し、かつては委員会のメンバーとして大きな影響力を持っていた牧師のマーチン・ブレイクボロー氏は、昨晩、ACMDが政府のスタンスには全面的に反対しているとして、「裏でどのような政治的な企てがあろうとも、ACMDがカナビスの分類変更を支持すべき根拠そのものがないのです」 と言う。

「18ヶ月前にも分類を見直しましたが、その時よりもカナビスが危険になっていることを示す新しい証拠は全くと言ってよいほどないのです。この問題でACMDが何度も検討を余儀なくさせられている理由は、内務大臣が新しく変わる度に自分の強い姿勢を誇示したがるからなのです。」

ACMDテクニカル委員会では来る2月に、分類見直しの証拠について公開討論会を予定しているが、その座長を務めるデビッド・ナット教授は、「結局のところ、どのような法律であっても最終的には政治的に決定されるのです。ACMDはそれにアドバイスできるだけです」 と語っている。

一方、イギリス・ドラッグ防止アライアンスのデビッド・レインズ代表はACMDのスタンスを批判して、委員会のメンバーには「害削減」を提唱し、合法化キャンペーンに共感を抱いている人たちが目立っていると話している。

「実際、内務省も同じですが、委員会の中では害削減・自由化・合法化ロビーが強すぎると考えています。ACMDの一部のメンバーたちは本当にそう思っているのでしょうが、見当違いです。でも別のメンバーには、こうした合法化ゲームには賛成を抱いていない真っ当で素晴らしい人たちもいるのです。」

数日前には保健省から、カナビス関連の精神健康問題で治療を受けにくる人が1週間でおよそ500人になっているという数字が発表されて、この問題の議論にも拍車がかかっている。数字によると、2004年にカナビスがB分類からC分類にダウングレードされて以降、治療を受けた成人の数は、2004-05年度に1万1057人だったものが2006-07年度には1万6685人に増加している。また、カナビスが現員で治療が必要になった青少年の数についても、2005-06年度には8014人が9200人以上に増えている。

特に若者の精神の健康に対してカナビスには隠されたリスクがあるという懸念が広まって、カナビスの分類の見直しを求める声が大きくなっている。16才から24才の若者では、250万人以上がカナビスを使った経験があると言われている。

ACMDの答申決定は4月に予定されているが、内務省の広報官は、ACMDの役割について、「分類のアドバイス」 をすることだと再度確認する声明を発表している。

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この記事では、「カナビス関連の精神健康問題で治療を受けにくる人が1週間でおよそ500人」 と書かれているが、すべての人が精神健康問題で治療を受けに来ているわけではなく、大半がそれ以外の理由によるもので、中には、年に繰り替えし複数回治療を受けているケースや、治療ではなく単なる相談も含まれているという 指摘 もある。

2005年に行われたカナビスの分類見直しのときは、カナビスは精神病を引き起こすという新たな研究が発表されたことが理由になったが、諮問委員会では、B分類に戻すほどの根拠にならないとしてC分類にとどめておくことを答申している。

この時もクラーク大臣が答申を無視する構えを見せている。しかしこれに対しては、諮問委員会の委員たちが政治目的で戻すなら辞任すると迫り、最終的には大臣も答申を認めて決着している。

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