平成17年(す)第921号
決定
本籍・住所 ◆◆県◆◆市大字×××
会社員
梵 nataraja(実際は本名)
昭和55年10月29日生
上記の者に対する大麻取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反被告事件(平成17年(あ)第1946号)について、平成17年12月8日当裁判所がした上告棄却の決定に対し、被告人から異義の申立てがあったが、この申立ては理由がないので、当裁判所は、刑訴法414条、386条2項、426条1項により、裁判官全員一致の意見で、次のとおり決定する。
主文
本件申立てを棄却する。
平成17年12月22日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 滝井繁男
裁判官 津野修
裁判官 今井功
裁判官 中川了滋
裁判官 古田佑紀
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Sさんの夫Qさん(フランス人)は、2005年春、大麻取締法と関税法違反で逮捕された。
フランスから送られてきた小包の中に、大麻樹脂が入っており、それが税関で発見され逮捕となった。入っていた量は1.26グラムと少量だった。
その大麻樹脂は夫がフランスの友人に頼んで送ってもらったものだった。
逮捕後、接見禁止となり、Sさんは夫と面会することもできなかった。
20日間の勾留後、弁護士の力を借りず、Sさんは自分で保釈請求の手続きを取り、夫を檻の中から取り戻した。
国選の弁護士は、頼りなく、不安になったそうだ。メールによると、「終始へらへらした印象で、私も彼も不安になりました。」とのこと。
判決は懲役10月執行猶予3年だった。
以下、夫人のメールを抜粋して引用。
初めてのことで何をしたら良いのかわからず、不安で仕方がなかった時にネットでTHCを見つけました。
拘留中は厳しい接見禁止がついてしまい、彼に会うことができず、私撰弁護人をつけるお金もなく、一つでも情報がほしかったのでTHC のHP は大変参考になりました。
そしてHPの中にあった、保釈請求を弁護人を通さずに行うことが可能、というのがわかり、私も実行し、請求が通って拘置所から出ることができました。
フランスで大麻は違法ですが、かなり緩く見られています。
売人には厳しいですが、個人で所有するのは暗黙の了解、のようなところがある印象を受けました。
日本はフランスと違ってかなり厳しいから気をつけてと以前から言ってはいましたが、彼もそこまで実感していなかったのと、私も別に悪いものと思っていませんのでしつこく注意するようなことはしていませんでした。
フランスの場合、もし今回のような少量の所持でしたら逮捕にはならないようです。
罰金があるかもしれないとのこと。
ただ、もし外国から送られてきた、となるともう少し厳しいようです。フランスの税関は取り締まりが厳しいので。
参考までに、フランスでの大麻にまつわる話です。
フランスの知り合いが勤めていた雑貨屋さんでのこと。店のボスが、店舗のある建物の住人が使うエントランスで大麻を吸っていました。
住人と思える男性が階段から降りて来て、「僕にも吸わせてくれ」と言ってきました。彼はジャンキーのようでした。
ボスが拒否すると言い争いになり、さらに取っ組み合いになってしまい、ジャンキーが少し負傷したので怒って警察を連れてきました。
こんなことになった理由を説明すると、警官はやれやれと言った感じで、
「次からは公共の場ではなく、吸うなら店の中でやってくれよ」
とボスに言って帰りました。もちろん取り調べや所持品チェックなど何もありませんでした。
私も実際現場にいましたが、今思うと日本じゃありえない話。
警官にとって大麻を吸っていた、所持していたということについては全く大事ではなく、ただ子供のけんかを止めに入った、といった印象をうけました。
また、10年くらい前に若者のたまり場にいた彼が、警察に大麻をもっているかと質問を受け、正直に持っていると答えると
「12グラム以上持っているか?」
と聞かれ
「3グラムくらいだ」
と言うと、
「12グラム以下だったら興味ない。もう行っていいよ。」
と言われたそうです。売人を探していたのでしょうか。
フランスはこんな感じです。日本と大違いですね。
大麻は違法は違法ですが、学生の時に誰もが一度は通る道なのです。「売人」となると話は別ですが。
彼は「お酒やたばこなんかよりずっと身体にいいもの」といつも主張しています。ただ、フランスでは規則が緩いから自由に大麻を吸える、という誤解を招かないようご注意ください。
私が見たり聞いたりしてきたのは一例で、一応大麻所持は違法です。
なので、もしフランスで大麻を手にすることがあってもやはり充分なご注意を!長くなってしまいましたが、少しでもフランスの様子がわかっていただけたでしょうか。
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「逮捕された人の話」に「Qさん(フランス人)」の例を掲載しました。
フランスも麻薬単一条約を批准する国として大麻を規制する法律はあるようですが、日本のような異常な取り締りはしていないようです。
「公共の場ではなく、吸うなら店の中でやってくれよ」
というフランスの警官の言葉、談話室で喘息患者さんから提案のあった言葉、
「公共の場所での喫煙の自由を求めているわけではありません。自宅で誰にも迷惑をかけずに楽しみたいだけです。」
と重なる言葉ですね。
Qさんの奥さんから教えてもらったフランスでのエピソードを、ご了解を得て紹介します。
上の写真は日曜日の-2度の御殿場だって。友人からもらったメールの写真がきれいだったので、貼っちゃいました。
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「THCとは」のコーナー、「大麻取締法被害者センター(THC)とは?」の説明と別に、「大麻取締法についてのTHCの考え」を掲載しました。
「大麻取締法についてのTHCの考え」
しばらく前に、身内が逮捕された東京の方から相談メールがあり、起訴前に準備をすべく東京地裁に保釈請求書をもらいに行ったところ、用紙の数が少ない(ない?)ので起訴されてから取りに来るよう言われたとのことでした。アホか、東京地裁。その分だけ保釈が遅くなるではありませんか。強く言って入手したほうが良いとの判断で、そうしたところ、くれたそうです。
「本人や家族による保釈請求」の記事を寄せてくれたTさんが、予備にコピーを取ってあったので、それをPDFファイルでアップしました。必要な方は参考になさって下さい。
東京地裁の「保釈請求書」と「身元引受書」
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7.一難去ってまた一難
判決も出て、後は執行猶予期間の3年間を何の問題も起こさずに過ごせば、また元の生活に戻れると、思っていた矢先、強制送還の危機が発覚した。
入国管理法に違反しているとの事。外国人が、日本で一定の罪を犯した場合、入国管理局は、強制退去の手続きをとるというのだ。
しかしながら、在留特別許可申請という道があり、日本人の配偶者だと、許可され易いとの事。
一方では、薬物事犯にはかなり厳しいと言う声も聞かれ、一体どうなることやら。
この件がはっきりしない限り、夫はデンマークには帰る事が出来ない。正確に言うと、帰国は出来るが、日本に入国できない事になる。
夫曰く
「留置場は出られたけど、今はもっと大きな刑務所に居るのと変わりない。」
留置場よりは、自由が利くが、自分がしたい事(デンマークへの帰省)が出来なければ、刑務所に居るのと同じ事だという。
この先どうなるかは分からないが、唯一分かっている事は、入国管理局が決定を下すまでにはかなりの時間がかかるという事。それまでは、辛抱強く待つしかない。
以上
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MBさんの奥さんの手記、「(4)裁判」「(5)自由の身」「(6)93日間を振り返って」「(7)一難去ってまた一難」を掲載しました。
文中、ナイスな記述がいくつもあります。
日本の司法制度には、「私達夫婦の愛を試す事が出来ました。大麻取締法ごときで壊れませんでした。有難う。」と言いたい。(かなり負け惜しみ)
負け惜しみなんかじゃないです。こんな糞法ごときで壊れる愛ではなかった。とっても心強く、嬉しく、こっちまで元気が出るような言葉です。
逮捕された人の話/MBさん(デンマーク人)
ナタの最高裁決定文も掲載しました。
全く、ナタの手紙にも書いてあったように、被告人をバカにした、ふざけた決定です。大麻の事実について、一切の検証をする気がないという腐れ司法の意思表示でしょう。蛙の面に小便という言葉を思い起こします。
裁判長裁判官蛙滝井繁男翁は、最高裁のサイトで次のような自己紹介をしています。
◆裁判官としての心構え
全ての者が,公正,透明なルール・原理に基づいて,平等な地位の下に適正な手続に従って違法行政の是正や権利救済をはかられるべきであるという司法の使命に常に思いを致しつつ,日々の課題に取り組みたいと思います。
その際には,法は生きものであり,社会適応力を持ち得るよう,活力を与えていくことが大切であるということを忘れてはならないと思っています。
爺さん、ブラックジョークのつもりでしょうか。
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6.93日間を振り返って
夫は、ここ日本で法律を犯した。
同じ事を母国でしたならば、罰金刑若しくはそれ以下で済んでいた事なのに。
私にとっての93日間は、色々な思いが交錯した期間であった。
夫は、私が日本で大麻を吸って欲しくない事を知っていた。にもかかわらず、やっていた。挙句の果てが、この結果だ。まったく頭にくる!
私をはじめ、日本を尊重していなかった事になる。しかし、この事にこだわっていては、前に進めない。私は何を望んでいるのか? この結婚を終わりにするのか?続けるのか? 答えは後者だ。その為には、この事を受け入れなければならない。
結婚当時、夫が大麻を吸う事は正直嫌だった。しかし、それを受け入れなければ、一緒には居られない。夫は、10代の頃から大麻を吸っていたそうだ。
デンマークでは、大麻に対して、法律も厳しくない。ある意味、文化なのだ。そう考えたら、受け入れる事は難しくなかった。
今回の場合、夫が私に隠れて大麻を日本で吸っていたこと、それに伴って逮捕された事が、結婚を終わらせるに足る理由になるか?と考えた所、それには及ばないというのが結論だ。
少し、負け惜しみに聞こえるかもしれないが、日本の司法制度には、「私達夫婦の愛を試す事が出来ました。大麻取締法ごときで壊れませんでした。有難う。」と言いたい。(かなり負け惜しみ)
この93日間で、私達は何を失ったのだろう? 夫は、自由を。私は、夫を。そして、経済的にもかなりのダメージはあった。しかし、他のケースと比べたら、運が良かったのかもしれない。
人によっては、仕事を失ったり、親子の縁を切られたり、報道されたり…
いずれも、私達には起こらなかった。
また、刑事さんや、留置場の警察官達も、親切に接してくれた。留置場の婦警さんはいつも、笑顔で接してくれたし、若い警官は、面会の時、内緒だと言って、3分面会時間を延長してくれた。
このような事を考えると、法を執行する側の人間も、大麻事犯なんてたいしたことではないと考えているのでは?と思えてくる。そこに、法律があるから、夫を逮捕し、93日間もの間自由を奪ったのだと。
いつか、日本の司法も私がしたように、大麻を受け入れる事が出来るのだろうか?
仮に出来たとしても、恐らく時間がかかるのだろうな。
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12月10日、今日、ついに最高裁から上告棄却の決定が届きました。
内容は、予想通り、理由も根拠もない、被告をバカにした、ふざけたものでした。
この手紙の発送と同時に、12日、最高裁に、異義申立書を送ります。
内容は、桂川さん、Iさんのものとほぼ同じです。
今は、最高裁なんて、こんなものかと、ただ、ただ、唖然とするばかりで、言葉もありません。
刑が確定する前にまた手紙を書きます。
それから、愛知の◆◆さんという方から、本の差し入れがありました。
住所と番地がなかったので、直接お礼の手紙を出せませんが、ありがとうございました。
それではまた。
梵 nataraja 12月10日
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平成17年(あ)第1946号
決定
本籍・住所 ◆◆県◆◆市大字×××
会社員
梵 nataraja(実際は本名)
昭和55年10月29日生
上記の者に対する大麻取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反被告事件について、平成17年8月30日福岡高等裁判所那覇支部が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人立田廣成の上告趣意のうち、違憲をいう点は、大麻の有害性を肯定した原判断は相当であるから、前提を欠き、その余は、単なる法令違反、量刑不当の主張であり、被告人の上告趣意は、違憲をいうが、上記のとおり前提を欠き、いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
よって、同法414条、386条1項3号、181条1項ただし書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
平成17年12月8日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 滝井繁男
裁判官 津野修
裁判官 今井功
裁判官 中川了滋
裁判官 古田佑紀
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11月20日に書かれたナタの手紙が今日24日に届きました。
「THCの談話室に僕の名前で書き込みをしてもらえないでしょうか」とのこと。談話室と本欄でお伝えします。
「塀の中から」 nataraja 2005/11/20
11月5日のスカンクさんの書き込み、11月6日のRさんの書き込み、拘置所の独居房に届きました。
警察の留置場から拘置所に移り、もう半年以上独居房で生活しています。話し相手もなく、1日のうち、声を発するのは朝と夕にある点呼の時、自分の呼称番号「67番」と言うくらいです。そんな生活のなか、僕と直接面識のないスカンクさん、Rさんのような方が、THCのHPを通し、僕の事件を知り、応援して下さることがとても嬉しく、勇気付けられ、励まされます。
特に、今は、懲役が目前に迫り、精神的に弱っていたところだったので、お二人の書き込みにとても救われました。
ありがとうございました。11月9日のスカンクさんの書き込み、カタカナで書かれた「ニホンノタイマトリシマリホウ」、僕には「タマシイトリシマリホウ」に見えました。
上告棄却の決定が出たらまた手紙書きます。それではまた。
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沖縄のナタから手紙が届きました。THCの記事や談話室の書き込みなどを時々送っているので、それを読んでの談話室への返信がありました。ナタの裁判レポートと談話室に掲載しました。
塀の中から[ナタラジャ裁判]
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元内閣法制局長官の林修三さん(故人)という方が、次のような随筆を書いています。
『時の法令』財務省印刷局編 1965年4月 通号530号「大麻取締法と法令整理」より
<一>
近頃、マリファナたばこなどという麻薬の一種がマスコミの話題になっている。先頃、来朝した黒人ドラマーなどがこの麻薬使用のかどで逮捕されて世間の注目をひいた。ジャズマンなどが好んで使用するのは、この麻薬が一種の陶酔状態を作り出すからだという。あへん、ヘロインなどとは作用のちがうものだそうであるが、中近東地方の麻薬といえば、大体がこの系統のものらしい。十一、二世紀のイランの山地地方にハッシーシュという麻薬を使って若者を誘惑し、これを暗殺者に仕立てて近隣諸国をふるえ上らせたという暗殺者王国(山の老人の王国)があったことは有名な話であるが、そこで使われた麻薬も、この種類のものであったようである。ついでであるが、英語のアサシネーション(暗殺)ということばの語源は、このハッシーシュから出ているらしい。
<二>
それはさておき、このマリファナたばこの麻薬的作用はカンナビノールという成分によるものだそうであるが、その原料になるものは大麻草(カンナビス、サティバ、エル)である。大麻草といえば、わが国では戦前から麻繊維をとるために栽培されていたもので、これが麻薬の原料になるなどということは少なくとも一般には知られていなかったようである。したがって、終戦後、わが国が占領下に置かれている当時、占領軍当局の指示で、大麻の栽培を制限するための法律を作れといわれたときは、私どもは、正直のところ異様な感じを受けたのである。先方は、黒人の兵隊などが大麻から作った麻薬を好むので、ということであったが、私どもは、なにかのまちがいではないかとすら思ったものである。大麻の「麻」と麻薬の「麻」がたまたま同じ字なのでまちがえられたのかも知れないなどというじょうだんまで飛ばしていたのである。私たち素人がそう思ったばかりでなく、厚生省の当局者も、わが国の大麻は、従来から国際的に麻薬植物扱いされていたインド大麻とは毒性がちがうといって、その必要性にやや首をかしげていたようである。従前から大麻を栽培してきた農民は、もちろん大反対であった。
しかし、占領中のことであるから、そういう疑問や反対がとおるわけもなく、まず、ポツダム命令として、「大麻取締規則」(昭和二二年 厚生省・農林省令第一号)が制定され、次いで、昭和二三年に、国会の議決を経た法律として大麻取締法が制定公布された。この法律によって、繊維または種子の採取を目的として大麻の栽培をする者、そういう大麻を使用する者は、いずれも、都道府県知事の免許を受けなければならないことになり、また、大麻から製造された薬品を施用することも、その施用を受けることも制限されることになった。<三>
こういういきさつがあるので、平和条約が発効して占領が終了したあと、昭和二七年から二九年にかけて、占領法制の再検討、行政事務の整理簡素化という趣旨で、大規模な法令整理が考えられたときには、この大麻取締法の廃止(少なくとも、大麻草の栽培の免許制などの廃止)ということが相当の優先順位でとりあげられたのであり、私ども当時の法制局の当局者は、しきりに、それを推進したのである。厚生省の当局も、さっきも書いたように、国産の大麻は麻薬分が少ないことから整理の可能性を認めたのであるが、なお最後の踏切りがつかないというので、私どももそれ以上の主張はせず、この法律の廃止は見送られることになった。
もし、このとき、法令整理の方に踏み切っていたとしたら、最近のような大麻系、麻薬横行の事態に直面して、厚生省当局は、必要な法令まで廃止したものとして、世論の批判をまともに受けることになっていたであろうし、それにつながって、私どもも責任を感じなければならない破目になっていたであろう。
こういう点をみても、法令整理とか行政事務の整理ということが中々難しいものであることがわかる。昨年九月に出た例の臨時行政調査会の答申も、行政事務の整理、法令整理ということを内容に含んでいるが、わが国の現状で、整理すべき法令、整理すべき行政事務のあることはたしかであるとしても、その選択については一時の思いつきによることなく慎重な調査と検討を必要とする。そうでないと、この大麻取締法の場合のような危険をおかすことになりかねない。これは別に臨時行政調査会の答申を批判しているわけではなく、むしろ、私のざんげ話である。<四>
ところで、これまで麻薬の国際的な取締りについてはいくつかの条約が併存し、規定も重複していてわかり難いところが多かったが、それらを統一整備するために、「一九六一年の麻薬に関する単一条約」という条約が作られ、昨年一二月一二日発効している(この条約については、本誌第五二五号に解説が出ている。)。わが国も、昨年の第四六回国会で承認を受けて、これに加入しているが、この単一条約では、大麻について、第二八条に、従来の国際条約になかったような新しい規定を設け、締約国は、大麻または大麻樹脂の生産のための大麻植物の栽培を許すときは、大麻植物につき、けしの統制についてこの条約の規定する統制制度と同様の統制制度を適用しなければならないとしている(二八条1)ので、この条約が発効したあとは、わが国の場合、逆に、従来の大麻取締法程度の取締りだけでいいのか、あへん法がけしの栽培について行なっている程度の厳重な統制をしなければ条約違反になるのではないかという疑問が生じてきた。大麻取締法が法令整理のやり玉に上った当時とくらべると、まさに一八〇度の方向転換である。
単一条約と大麻取締法の関係については、昨年、単一条約を国会に出すにあたって、私も若干心配になったので、厚生省あたりにいろいろ研究して貰ったのであるが、条約第二八条は、前記の規定に続いて、この条約は、もっぱら産業上の目的(繊維およぴ種子に関する場合に限る。)または園芸上の目的のための大麻植物の栽培については適用しない旨を定めており(二八条2)、わが国で現在、大麻草の栽培の免許を受けているのは、大部分は繊維または種子を採取する目的のものばかりであり、これについては、右の規定で条約の適用が排除されるから問題はないし、研究目的で大麻を栽培するため研究者の免許を受けている者も若干いるが、それはわずか十数人で、その栽培量もきわめて少なく、さらに大麻取締法は、大麻研究者が大麻を他人に譲渡することを禁止する旨の規定を設けているから、このさいは、わざわざ大麻取締法を改正するには及ぶまいということであった。そこで、その改正は、見合わせということにしたのである。
一時は廃止されるかという運命にあった法律が、今度は強化の必要性が問題にされるとは、まさに有為転変の世の中である。それにしても、昨今の新聞などをみると、青森県あたりでは、繊維または種子を採取の目的で栽培されている大麻が米軍基地などに流れているという話である。こういうことが大きくなってくると、あるいは法律の改正話も出てくるかも知れない。
(前内閣法制局長官)
当時の法制局長官が、「なにかのまちがいではないかとすら思ったものである。大麻の「麻」と麻薬の「麻」がたまたま同じ字なのでまちがえられたのかも知れないなどというじょうだんまで飛ばしていたのである。」というほど、何が目的の法律か、為政者たち自身にすら全く理解できなかった法律。だから、大麻取締法には第一条に書かれるべき「目的」がないのでしょう。立法の経緯からして、ズサンだったわけです。
当局者がこれではマトモな法律ができるわけがありません。占領下だったので、占領軍に言われるまま、テキトーに作った法律だということですね。
厚生労働省は立法の当初から「有害性」についてのデータを持っていなかったばかりでなく、わが国の大麻はインド大麻とは毒性が違うとか言って、大麻取締法の必要性に首をかしげていたと言うのです。
もし、このとき、法令整理の方に踏み切っていたとしたら、最近のような大麻系、麻薬横行の事態に直面して、厚生省当局は、必要な法令まで廃止したものとして、世論の批判をまともに受けることになっていたであろう
そんなことなかったでしょうね。もし、あの時、法令整理に踏み切って大麻取締法を廃止していれば、今ごろは嗜好用途で逮捕されないだけでなく、医学的な研究も進んでいて、産業的にも自由な研究と開発が認められ、さすが我が国の厚生労働省は先見の明があったと、後世まで日本の誇りだったかもしれないのに。
ひょっとすると、当時の為政者たちは、占領軍の指令で止むを得ず大麻取締法を作ったけど、こんなくだらない法律には目的なんかないのだという抵抗の意地を見せて、敢て目的条項を入れなかったのかもしれないとさえ思えてきます。大麻とは、伊勢神宮の御札のことでもあります。
大麻と日本人のアイデンティティの問題については、丸井英弘弁護士の「大麻取締法の運用の改善と改正を求める請願」に論考があります。
戦争に負け、大麻を奪われ、私たち日本人は神を失ったのだと思います。国家神道といっしょに宗教性まで奪われてしまったような気がしてなりません。
大麻取締法の問題に取り組むことは、占領国に押し付けられた悪法を克服するという意味で、私たち日本人自身が自分たちの社会を創り、回復する活動でもあるのだと思います。
林修三さん、戦後歴代の内閣で長く法制局長官を務めた方のようです。ご存命だったらぜひ大麻裁判で証言して頂きたいところでした。このような随筆を遺して下さったことに感謝です。
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平成17年(あ)第1946号
大麻取締法違反.麻薬及び向精神薬取締法違反被告事件
上告趣意書
最高裁判所
第二小法廷 御中
平成17年 月 日
被告人 梵 nataraja
記
原判決は、大麻取締法は憲法13、14、31条に違反するとの主張に対し、昭和60年の最高裁決定という20年も前の古いデータを元に、「大麻の有害性は、所論が前提とするような極めて毒性の低いものとはいえない」とし、控訴を棄却した。
しかし、現在は、先進諸国で大麻に関する研究が進み、その結果、各国で個人使用の非犯罪化、医療目的使用の合法化が広まっており、20年前とは状況が大きく違う。
現在の研究結果等から見れば、大麻には刑罰に相当するような害悪がないのは明らかである。
よって、大麻取締法は憲法13条(国民の幸福追求権)、14条(法の下の平等の保障)、31条(法定手続の保障)に違反する。
また、過去の判例、及びそれを元にした原判決には大麻に関する認識の誤りがあり、再検討されるべきである。
これまでに大麻取締法の違憲性を主張する上告は多数されており、その多くは昭和60年以降の科学的知見に基づき、論理的に論証した趣意書を提出している。
しかし、それに対して最高裁は全く審理する事もなく上告を棄却している。
しかも、その内容はたった数行で、上告した者に対し、納得できる説明すらされていない。
人生の大切な時間を奪う重大な判決を行うのに、最高裁がこんなことでいいのだろうか。
裁判所という所は、正義を行なう所だと信じて来たが、大麻の裁判においては正義が行われているとはとても思えない。
これ以上、大麻取締法による被害者を出さないためにも、大麻の個人使用を目的とした所持・栽培が刑罰に値するか、昭和60年以降の科学的知見に基づいた正しい判断をお願いしたい。
以上
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