アメリカ・ワシントン州

医療カナビスの所持栽培量をめぐる混迷


クリックで拡大

Source: Los Angeles Times
Pub date: 22 September 2007
Subj: What's The Standard Dosage for Pot?
Author: Lynn Marshall, Los Angeles Times Staff Writer
Web: http://www.mapinc.org/norml/v07/n1091/a07.htm


ワシントン州では、慢性的な背中の痛みから癌に至るまで幅広い病気の患者が、医療目的でカナビスを使うことを認められている。州法では、最高2ヵ月分の医療カナビスを所持できることになっているが、実際のところ、標準的な摂取量ばかりではなく、標準的な摂取方法すら規定されていない。

1998年に住民投票で成立した条例の中には、2ヵ月分の供給量に相当するカナビスの量や栽培できる植物の本数については何も書かれていない。

現在、州議会はこの問題に対する答を来年の7月までに出すことを迫られており、2ヵ月分をどう決めるかをめぐって、公聴会で専門家や市民に意見を求めている。

「考慮しなければならないことはたくさんあります」 とシアトル・グリーンクロス患者共同組合の設立者であるジョアンナ・マッキー代表は言う。「食べる人もいれば、喫煙する人もいます。こうした摂取方法の違いで量も異なりますし、しかも人や症状によっても必要とする量が違うのです。」


シアトル・グリーンクロス患者共同組合 の設立者ジョアンナ・マッキーさん。
背中と足の痛みの緩和のためにに毎日バポライザーで医療カナビスを吸っている。
Andrei Pungovschi / AP, 2007/6/27

シアトルで今月開催された州保健局の市民集会では100人以上が参加し、マッキーさんを始め45人が意見を述べている。ワシントン州東部の中心都市スポーケンで開かれた集会でも同じ程度の人が参加している。

集会の参加した人たちの大半は明らかに医療カナビスの支持者たちで、その多くが州保健局のウエブサイトにもコメントを投稿しているが、ウエブサイトには、カナビスの使用そもものを不安視する書き込みもいくつか見られる。中には、「このような非問題を問題にするのは、時間と資源の無駄だ」 といったコメントもある。

しかし、この問題は、医療カナビスを使っている患者さんたちにとっては極めて切実な問題になっている。

「現在どうなっているかと言えば、結局のところ、実質的にそれぞれの郡の警察当局が60日分の供給量を決めてしまっているのです」 とアメリカ自由人権協会(ACLU)ワシントン州支部でカナビス教育プロジェクトを担当しているアリソン・ホルコム弁護士は言う。「一部の郡では、60日分がゼロに設定されているところすらあるのです。」

現在のところ、12州が医療カナビス患者を訴追から保護する州法を持っているが、患者または介護者が所持できるカナビスの量が明確に決められていないのはワシントン州だけしかない。

しかし、実際の量についてはそれぞれの州で大きく異なっている。最も多いのがオレゴン州で、24オンス(680g)または成熟した植物6本となっているが、手持ちを1オンス(28g)しか認めていない州もいくつかある。また、カリフォルニアの州法では、一応、8オンス(230g)または成熟植物6本までと決められているが、市や郡ではそれ以上のガイドラインを独自に設定することもできるようになっている。

ワシントン州立医科大学リハビリ医薬品部で筋萎縮性側索硬化症(ALS)のカナビス治療について研究しているグレゴリー・T・カーター教授は、どの法律の制限量も低すぎると指摘する。

「量を決めるには、実際問題として非常に多くの変数があり過ぎます。喫煙する場合だけ見ても、カナビスの品質ばかりではなく、喫煙者の吸収能力差も考慮しなければなりません。吸うのが上手な人もいれば下手な人もいるのです。」

カーター教授のチームでは、30年以上わたって続けられている連邦政府による実験新薬プログラム(IND)で使われているカナビスの量について研究した結果、60日分の量はいずれの州の規定よりはるかに多く、患者一人あたり約4.5ポンド(2000g)になっている。

しかし、教授は、「おそらくこれでも控えめな数字です」 と言う。

ワシントン州の刑事弁護士会の事務局長を勤めるトム・マクブライド弁護士は、法律の変更を歓迎して、「病人に必要な量を裁判官や検事が決めるなどというのは筋が通っていません。医療上の決定事項なのです。常々、医者が決めるべきことだと思っています」 と語っている。

また彼は、制限を高く設定しても、嗜好目的のディーラーの隠れみのになる心配はないと言う。「ワシントンの州法では、グループ栽培や配付は認められていませんし、60日分の量が成文化されてもその部分は変わらないわけですから。」

医療カナビス支持者の多くは、いずれは、カリフォルニア州の一部で認められているように、患者の共同組合が医療カナビスを栽培して配付できるようにしたいと望んでいるが、すぐにそれが実現するとは誰も思っていない。

医療目的と嗜好目的の双方で全国的にカナビス法改革運動に取り組んでいる非営利団体マリファナ・ポリシー・プロジェクトのブルース・ミルケン広報官は、ワシントン州の新しい定義が低く設定されるのではないかと懸念を示しながらも、それ以上に大きな問題は、すべての医療カナビス患者が安全にカナビスを入手できるようになることだとも強調している。

「連邦政府が医療カナビスを敵視している限りは、問題は残されたままなのです。」 この連邦政府の問題については、シアトルの集会の意見の中でも多くの人が触れていた。

集会で最初に話をしたカロライン・ウエルチさん(47)は、この初夏に卵巣癌の第3ステージ(5年生存率25%)という診断を受けて、治療に耐えられるのは医療カナビスがあるからだと言う。

「たとえ医療カナビスが必要になることが分かる以前から自分のためにカナビスを栽培してくれる人がいたとしても、どう考えても、植物を栽培できるのは次の夏になってしまいます。ですが、もう私にはどうしようもありません。」

シアトル・グリーンクロス患者共同組合のマッキーさんは、これまで何年にもわたって何千人もの医療カナビス患者さんと活動をしてきたが、「60日分のカナビスを持っている人など会ったこともありません。みんな数オンスか数本の植物だけです」 と語っていた。

この問題に対する一般のコメントは年末まで受け付けて、保健局では2008年の始めに素案を発表することになっている。最終ルール案の提出期限に関しては、医療カナビスの入手問題を審議する州議会への報告が義務づけられている7月までということになる。

シアトル・グリーンクロス患者共同組合
アメリカ自由人権協会(ACLU)ワシントン州支部カナビス教育プロジェクト

ワシントン州の医療カナビス法  (2004.1)
カナダ保健省の処方量ガイドライン  (2007.6)

実際必要量を分析している文献:
Dosing Medical Marijuana: Rational Guidelines on Trial in Washington State  Sunil K. Aggarwal, Muraco Kyashna-Tocha, Gregory T. Carter, Medscape General Medicine 2007;9(3):52
Cannabis yields and dosage  Conrad Chris. (pdf)

カナビス・ディスペンサリー急増、対応に苦慮するカリフォルニア州の各自治体  (2007.8.19)
カナダ政府の医療カナビス、高価・品質不評で不良債権の山  (2007.7.3)
カナダ保健省、医療カナビス処方削減を医師に要請  (2007.6.19)
医療カナビスに民事裁判の可能性、患者の共同栽培をめぐる親展開  (2007.6.9)
ワシントン州、修正医療カナビス法が成立  (2007.5.17)

平均的な医療カナビス患者のカナビス使用量については1日に数グラムとされているが、多量に必要な人もいる。

例えば、カナダで Medical Marijuana Mission という有名なサイトを運営している アリソン・メイダンさん の場合は、多発性硬化症の治療に1日20〜28グラム(THC15%以上)を使っている。この量を60日分にすると1200〜1680gになる。

また、アメリカ連邦政府のINDプログラム(1976年〜1992年)に登録され、現在でも政府のカナビスの支給を受けている4人の患者の健康状態を調べた 研究 によれば、1日の使用量は7〜9g(THC4%以下)になっている。最も長い ローゼンフェルトさん の場合は、政府からは毎月300本のカナビス・シガレットの支給を受け、25年間に吸ったカナビスは約100kgになるという。

THC%を考えると、アリソンさんがIND患者なら4000g以上ということになり、この記事でカーター教授が主張している60日分で2000gというのが必ずしも大げさではないことが分かる。

確かに、カナダ保健省の言うように、大半の医療カナビス患者の場合は1日に5g以下(60日で300g以下)なのかもしれないが、それを基準量にしてしまうと多量に必要な一部の人には不足してしまうという問題が出てくる。

かといって基準値を2000gにしてしまうと、当局側からは嗜好用途に流用されるという懸念が出てくる。結局、この問題の根源には、嗜好カナビスが悪いものであり、医療カナビスは認めて嗜好カナビスは認めたくないというご都合主義がある。唯一の解決策 は、オランダのように医療カナビスも嗜好カナビスも認める以外にはないのではないか。

カナビスの医療利用の歴史  レスター・グリンスプーン M.D.

19世紀に薬局で販売されていたカナビスは、一般にカナビス・インディーカ抽出液(カナビス・チンキ)と呼ばれるアルコール・ベースの抽出液で経口投与で摂取するようになっていた。当時はバイオ的な検定法などなかったので、服用量は当て推量で行われていた。それでも、医師たちは過剰投与の危険性については余り気にしていなかった。たとえ多量に摂取しても、患者の不快な症状は薬の効果がなくなれば収まれるだけで、取り替えしのつかないような害になることは何もなかったからだった。

この時代の医師たちが気にしていたのは、摂取してから薬の効果が発現するまで時間がかかることで、チルデン溶液という商品の場合は、標準2ミニム(約100分の1cc)を摂取してから効いてくるまでに1時間から1時間半もかかった。19世紀の医師たちは、カナビスの際立った特徴の一つである、煙にして吸えば数分以内で医療効果が現れるという喫煙による発現の早さについては気づいていなかった。このことが発見されたのは、20世紀の初頭になってからで、余暇利用でカナビスを吸っていた見舞い客が、カナビス抽出液を使っていた患者にジョイントを回したことが発端だった。

カナビス喫煙の発現の早さというこの特徴は医療にとっては極めて重要な要素で、薬の最適量を決めるのに最も適任な患者自身が、カナビスを吸いながら、痛みや吐き気など自分の症状に合わせて必要な量を自分で調整することが可能になる。