カナダ政府の医療カナビス

高価・品質不評で不良債権の山

Source: The Globe and Mail
Pub date: July 3, 2007
Subj: Unpaid bills mount over Ottawa's pot
Author: Brennan Clarke
http://www.mapinc.org/norml/v07/n787/a03.htm


コンパッション・クラブのバッズ(THC18%)と保健省のカナビス(同12%)
保健省のカナビスは、グラインドされバッズの形状を保っていない。
Too many unanswered questions: Health Canada Cannabis


ジェーソン・ウィルコックスさんは、カナダ保健省の借金取りに墓場に連れていかれるのではないかと思いながら毎日を送っている。

ビクトリア州の生活保護住宅に暮らす末期的医療カナビス患者のウィルコックスさんは、昨年の冬に、カナダ保健省の医療カナビス・プログラムに加わって購入したカナビスの代金6400ドルを借金として抱え、もはや、政府の医療カナビスを買いたくてもそれすらできない状態になってしまった。

値段が高く、製品の品質が悪いばかりではなく、本来なら他の医薬品と同様に健康保険でカバーされるべきなのにそうなっていないと、ウィルコックスさんは憤慨している。

「何年もやっとのことで生きてきたのに、今さら1セントも払う気にはなれません。医療カナビスは医薬品として無料で提供すべきです。私だけではありません。大勢の人が同じ目に会っているのです。この問題について話すことができないみんなに代わって、私が声を上げているのです。」

確かに、彼一人というわけではない。政府から医療カナビスを購入している認定患者538人の中で227人が料金を滞納して支給を打ち切られ、そのうちの約4%が取り立てのために債権回収会社に回されていると言われている。

カナダ保健省が今月更新した最新の数字では、登録患者の総負債額が30万ドルを越えている。

不良債権は、4月末に、保健省が仕入れの15倍の価格で医療カナビスを患者に売り付けていることが明るみに出てから、増加傾向にいっそうの拍車がかかった。

15倍という数字は、医療カナビス運動を展開しているグループのカナディアン・フォー・セーフアクセスが情報入手法を使って引き出したもので、それによると、保健省は、栽培を委託しているプレイリー・プラント・システム社から1オンス10ドルで仕入れて、患者には150ドルで販売していることが明らかにされた。

グループでは、慢性的な病気に苦しむ所得の少ない人たちに対して、政府はこのような不当に高い値段を付けていると非難している。

「危機的な病気に苦しむ患者に15倍もの高値で売り付けておきながら、支払えなくなると債権回収会社に回す。こんな連係は浅ましいと言うほかありません」 とバンクーバー・アイランド・コンパッション・ソサエティのフィリップ・ルーカス代表は声を荒げている。ルーカスさんのグループでは、違法すれすれのところで運営を続けながら患者に医療カナビスを提供している。

一方、保健省のレニー・ベルシェロン広報官は、最近出たニュースの価格は一括購入の部分だけで、検査や配布などにかかる費用を無視していると語っている。

プログラムのコストに関する詳細については、栽培委託契約をしているプレイリー・プラント・システム社との契約のプライバシー保持のために公表できないとししながらも、ベルシェロン広報官は、医療カナビス患者へ出している価格に「生産と配布にかかるすべてのコストを転嫁しているわけではない」 とも述べている。

ウィルコックスさんは、13年前にHIV陽性と診断され、吐き気や頭痛、筋肉痛、さらに生きるために不可欠な強力な坑レトロウイルス剤の副作用などと闘うためにカナビスを使い始めた。また、カナビスは、体の消耗を防ぐために注射している筋肉増強ステロイド剤にともなう怒りや攻撃的な振舞いを抑えるのにも役立っている。2年前は、身長186cmで体重70kgだったが、現在では98kgまで戻っている。

「注射か杖かを選択しなくてはならなくなって、注射を選びました。これは人生のクォリティの問題なのです。5年前から、さまざまな薬の影響で内臓がダメになり始めたのです。」

3年前に政府のライセンスを得て、1日に10グラムまでのカナビスの所持が認められるようになった。ジョイントにすれば20〜30本になる。大半の医療カナビス患者は1日5グラムが基準になっているが、ウィルコックスさんは耐性が高いので量も多くなっている。また、彼は、カナビスを吸うだけではなく、クッキーにしたり、バターに混ぜていろいろな料理に使っている。

カナダの登録患者1774人の大多数と同じように、ウィルコックスさんも自分でカナビスを栽培していた。しかし、昨年の秋の収穫が思わしくなく、やむなく、昨年の12月から無料ナンバーの自動受付を使って保健省に政府のカナビスを注文するようになった。それ以来、保健省から宅配で送られてきたカナビスは、4ヵ月間で1200グラムになった。

「相手が機械だったから、機械的に注文を続けてしまったのです。実際の人間とは一度も話したことはないんです。」

最後の荷物が3月に届いたときには、これで供給を打ち切り、未払い分は債権回収会社に回したと書かれた手紙が添えられていた。

確かに、政府に医療カナビスは1グラム5ドルで、地域のコンパッション・クラブが提供している最高品質のバッズの半額になっている。しかし、ウィルコックさんは、自分自身と7才の娘を月1000ドルにも満たない障碍者手当ての暮らさねばならず、とても代金を支払うことまで考えられられないと言う。

「どうしても薬が必要な時なら、どんなに高くてもどんなに悪い条件でも、生きるためにはそれより他の道はないのです。それが犯罪だというのなら、それでも仕方ないです。」

ウィルコックさんのルームメイトのアン・ヘノビーさんも同じ借金を抱えている。彼女もHIV陽性患者で、保健省に1500ドルを2回注文した分が残っている。同じ棟に住むリンダ・ラシュトンさんも1回注文して1500ドル以上の支払いができないでいる。

カナダ保健省のプログラムに山積する問題は、いやいやながらも政府が合法のドラッグ・ディラーにならなければならなくなった事情から派生している。

2001年に、保健省は、実験的にカナビスを栽培するために、5年契約をマニトバ州のプレイリー・プラント・システム社と結んだ。同社は、フリンフロン鉱山の地下の廃鉱に栽培場を持っている。

2003年には、危機的な病人にカナビスを利用できるように求めた裁判所の命令が出されたが、政府は控訴し、最終的には2年後に、栽培しているカナビスを配布することに合意した。

ベルシェロン広報官は、政府は最初からカナビスを無料で提供することはしないと明言してきたと言う。

「われわれの政策では、製品には相応のコストを負担してもらうことを常に表明してきました。患者さんの支払いを免除することを認めた規定はどこにもないのです。」

さらに、最近の裁判の判決にもかかわらず、カナビスは 「カナダでは医薬品として認可されていない」 ために、通常の公共の医療保険システムではカバーされない仕組みになっているとも述べている。

これに対して、カナビスの活性成分THCを人工的に化学合成した製品は、全額が保険で利用することができるようになっている。しかし、ウィルコックスさんは、合成THCは自分の症状の緩和には余り効かないと言う。

最近では、自分の栽培が回復して収穫も得られるまでになり、ウィルコックスさんの手元には政府のカナビスが150グラムほど残っている。キッチンの戸棚には、挽いたばかりのコーヒーパッケージの横に真空パックされたカナビス入りのアルミフォイルの袋が置かれている。

未開封の製品は政府に送り返すこともできるが、ウィルコックスさんは、カナダ保健省の医療カナビスの扱い方に抗議するために、残しておくつもりだと言う。

「でも、たぶん料理して食べてやる。それが一番ふさわしいかもね。」




カナダの医療カナビス年表

1923 カナビスが、あへん及び麻酔薬法で違法化される。
1961 カナビスの対する罰則が、栽培で最高7年、密輸で最高14年に引き上げられる。
1973 ドラッグの非医学的使用に関するラ・ダイン委員会の調査結果にもとづいて、政治家たちもカナビスの非犯罪化を支持。その中には、ピエール・トルドー首相や進歩保守党のジョー・クラーク議員などもいた。

1992 ブライアン・マルルーニー首相に率いられた保守党政権が、カナビスの所持に対する罰則を2倍に引き上げる法案を提出したが、成立前に内閣が瓦解。
1997-05 ブリティシュ・コロンビア・コンパッション・クラブが医療カナビスを供給する非営利団体として初めて登録され、すぐ後に、トロント・コンパッション・センターが続いた。どちらも、法的にはグレーな状態で運営されており、絶えず告発の脅威に晒されている。
1999-05 オンタリオ州のエイズ患者であるジム・ウエイクフォードが、裁判で規制薬物法56条の免責規定が認められ、カナダで初めての合法医療カナビス・ユーザーになった。

2000-07 オンタリオ控訴審が、カナダのカナビス法はカナダ人の権利と自由に関する憲章に違反しているとする判決を下した。
2001-01 カナダ保健省が、マニトバ州の鉱山の廃鉱に、初めての合法カナビス栽培施設を立ち上げた。
2001-07 カナダが世界で初めてカナビスの医療使用を合法化。対象は末期的な病気や慢性的な病気の患者で、写真付きのIDカードが発行された。
2003-10 オンタリオ控訴審が、政府の医療カナビス・プログラムは憲法に違反しているとして、政府にカナビスの配布を命令。

2006-02 カナディアン・プレスが、278人の医療カナビス・ユーザーのうち127人が政府の医療カナビスの品質が悪いとして支払いを拒否していると報道。
2006-12 保守党政権が医療カナビス研究予算の400万ドルをカット。