最新研究

カナビスと精神病の関係は弱い



Dirk Hanson

Source: Addiction Inbox
Pub date: 23 Nov 2008
Marijuana Panic Revisited
Author: Dirk Hanson
http://addiction-dirkh.blogspot.com/2008/11/marijuana-panic-revisited.html


イギリスでは昨年の6月にゴードン・ブラウン政権が発足したが、直後に、カナビスを現在のC分類からもっと刑罰の思いB分類に戻すことを表明した。

その後、それにタイミングを合わせるかのように、最も信頼の高い科学雑誌の一つであるランセットの7月号に、「今では、カナビスを使うと大人になってから精神病になるリスクが増加することを示す十分な証拠が揃っており、若者に対して警告を発する必要がある」 とする論文が掲載された。

論文は、カナビスを使っている人では精神病のリスクが41%高くなると結論付けていたことから、ロンドン・デイリー・メールを皮切りに、ジョイントを1本でも吸えば統合失調症になるリスクが41%も増えるという精神病の恐怖を煽る記事が溢れた。

その一方では、その誤りを指摘する専門家 たちも多く、カナビス精神病を回る世論は分裂し狂乱状態になった。

また今年の5月になると、ロンドン大学の研究者たちが、これまでとは種類の異なるカナビスによって今までになかったタイプの精神病を引き起こされるとする研究報告を発表した。間髪を入れずにブラウン首相は、オーバードーズすれば死ぬこともありえる 「致死性」 の新種が現れたと公言し、B分類に戻すことの正当性を主張した。(U.K. Marijuana Panic Continues


最新研究、カナビスと精神病の関連は低い

だが2008年11月、王立精神医科大学が出版しているイギリス精神医学ジャーナルに、カナビス精神病の関係する確率は低いことを強く示唆する 最新の論文 が掲載された。

研究チームは、ブリストル大学、ロンドン・インペリアル・カレッジ、ケンブリッジ大学、カーディフ大学のドラッグの専門家と精神科医たちのグループで、「カナビスが精神障害の発症に影響を与えたかどうかを示したこれまでのエビデンスを総合的にレビュー」 している。

グループは、関連のあるデータベースを検索して1万5000件以上の文献リストを収集し、最終的には品質アセスメントに合致した13件の長期研究で検証を行っている。

研究の結論では、カナビスと精神病の関係を指摘する臨床的な意見が一般的にはなっているにもかかわらず、カナビスが精神病の人の症状をさらに悪化させるかどうかについては不明瞭なままで、他の交錯因子が原因になっていないかどうかについてもはっきりしていないと指摘して、著者たちは次のように書いている。

「疾患の重篤度についてベースライン調整をしている研究はほとんどなく、大半は、アルコールなどの交錯因子になりうる重要な要件についても調整していない。交錯因子のいくつかを調整している研究もあるが、しばしば、その結果は交錯因子の除去で元のデータが非常に大きく影響を受けている。」 このことは、交錯因子自体が原因になっている可能性すら示唆している。

最後に、「精神病の原因として特にカナビスが強く関連していると信ずべき理由は低い」 と結論づけている。

今回発表された論文:
Stanley Zammit, Theresa Moore, Thomas Barnes, Peter Jones, Margaret Burke, Glyn Lewis, Effects of cannabis use on outcomes of psychotic disorders: systematic review, The British Journal of Psychiatry (2008.11) 193: 357-363. doi: 10.1192/bjp.bp.107.046375

論文の内容もさることながら、さらに興味深いのが、論文の筆頭著者がスタンレー・ザミット教授になっていることだ。

ザミット教授は、2002年に発表された 1969年スエーデン新兵における自己申告カナビス使用と精神病のリスク、病歴コホート研究 や2007年7月にランセットに発表された カナビスの使用と精神疾患および感情障害出現のリスク、総合的検証 を主導したことでも有名で、どちらかと言えば、カナビスと精神病には強い関係があるというスタンスの研究が主だった。

だがランセット論文については、データの収集や分析に不十分な点があることを認めて、「われわれの立場から社会に何らかのアドバイスをしようと思えば… その時に利用できる最善のエビデンスを使わざるを得ない」と語っている。

しかしその後、COMT遺伝子がカナビスによる統合失調症発症に関与しており、カナビス・ユーザーの4人に1人は他の3人よりも10倍も精神病になりやすいとする 2005年の研究 の追認調査を行い、COMT遺伝子は発症リスクに無関係 だとする研究を発表している。

今回の研究も、ランセット論文の根本的な見直しを痛感していて、自分が筆頭研究者になって取り組んだようにも感じられる。交錯因子の問題は、自分のスエーデン研究について 批判 を浴びている。

スエーデン研究では未補正のリスク比を6.7(補正後は3.1)としていたのに比較すると、今回の論文の結論は、スタンレー教授のカナビスに対する見方の変化がよく表れているようにも思える。

ランセットの論文:
Cannabis use and risk of psychotic or affective mental health outcomes: a systematic review.  H.Moore, S. Zammit, et al. Lancet. 2007 Jul;370(9584):319-28  (pdf)

イギリス・ブラウン首相、カナビスの分類再見直しを表明  (2007.7.19)

前提が信頼できないランセット論文、精神病を引起こすことに懐疑的な見方  (2007.7.30)
データを曲解し誇張するカナビス報道、カナビスと精神病をめぐるランセット論文  (2007.7.28)
専門家、カナビスの分類変更に反対、イギリス政府の罰則強化策には科学的根拠なし  (2007.7.27)

カナビスと統合失調症の新たな関係、カナビスで統合失調症の初期兆候が出現  (2008.11.6)

ディルク・ハンソンのこのブログでは、最新の科学研究や医学的発見を紹介しながら、ドラッグやアルコールの中毒に関する健康問題を扱っている。