税収不足に悩むカリフォルニア州

医療カナビス税をめぐる期待と軋轢

Source: National Public Radio (US)
Pub date: April 3, 2008
Subj: Legitimacy of Pot Tax Revenue Remains Hazy
Author: Richard Gonzales http://drugpolicycentral.com/bot/article/npr.org5665.htm


カリフォルニア州では最大に160億ドルの税収不足が見込まれているが、州の税務当局は、これまで余り当てにしていなかった医療カナビス・ディスペンサリーにきちんと課税することに関心を向けるようになった。医療カナビスが合法化されているカリフォルニア州では、カナビスを販売するディスペンサリーが毎年多額の売上を上げている。

オークランドで 「ブルドック」 という店名のコーヒーショップ&ディスペンサリーを経営するリチャード・リー氏は、年間20万ドル以上の売上税を納めていると誇らしく語っている。店では医療カナビスを8分の1オンス(3.5g)入りパックで販売している。

「店のメニューには、1パック30ドルの中程度の品質のもの1種類と、40ドルの高品質のものを3種類用意しています。それぞれに10%の売上税などの税金がかかりますので、高品質パックは44ドルになります。」

医療カナビス支援グループであるアメリカン・フォオー・セーフアクセス(ASA)のクリス・ハーマン広報官は、カリフォルニアにある約400軒のディスペンサリー納めている年間の売上税は全体で1億ドルになると見積っている。

彼はまた、州当局がディスペンサリー・ビジネスをやり易くするために、あからさまに商品名を出さなくても済むようにごく一般的な販売許可証を発行するようにもなったと言う。 「こうした動きは、州レベルでの医療カナビスの合法扱いが少しずつ進んでいることを示しています。州のほうでも、税収の源を確保したいと思っているわけです。」

売上税の収集にあたっているカリフォルニア州税務当局のベテー・イー理事も、税収の流れを守ることを望んでいるとして、「われわれとしては、医療カナビス・ディスペンサリーが法律に準拠したビジネスだという見方をしています」 と語っている。

「ディスペンサリーの多くは州の税法をよく守ってくれていますが、連邦側もディスペンサリーを閉鎖しようと活発に動いていますので、こちらとしても州の税法に従うように強く働きかけることは非常に難しいという現状があります。今年は、ディスペンサリー・ビジネスの可否を分ける分水嶺の年になるかもしれません。」

ディスペンサリーは、連邦麻薬局(DEA)の強制捜査や家主への脅しを通じて絶えず圧力を受けてきたが、さらに国税庁もそれに加わってきた。

国税庁の犯罪捜査部門のアーレット・リー広報官は、「連邦の税犯罪に対する見方からすれば、すべての収入には報告義務があります。収入は、合法か非合法かにかかわらず収入であることには違いはありませんから、国税庁に報告する必要があります」 と言う。

「現在のカリフォルニアの状況は混沌としています。確かに、医療カナビス・ディスペンサリーも連邦税を払ってはいますが、それをトレースできるような書類は全くないのです。」

ディスペンサリー側でも、州の税財源に貢献することでビジネスの合法性をいっそう高めることを望んでいる。

リチャード・リー氏は、「ブルドック」 の他にも、ギフト・ショップ や 「オークステルダム・ニュース」を経営し、最近では、「オークステルダム・カナビス・ユニバーシティ」 を立ち上げたことでもよく知られている。

また、車椅子のカナビス活動家としても有名で、2005年にオークランドでカナビス非優先化住民Z条例では中心的な役割を果して成立に結びつけた。その後、Z条例監視委員会のメンバーとしても活躍し、2007年1月に発表した 報告書 では、連邦の妨害で、カリフォルニア州が医療カナビスで収集できるはずの年間の売上税7000万〜1億2000万ドルの大半を失う結果を招いていると指摘している。


オークランドのブルドック・コーヒーショップ、ディーラー・ルームは奥にある。

最近のアメリカでは経済の不審と税収不足から、カナビスを合法化して課税 することに注目する人も出てきた。

カナビス・コミュニティでは以前から、カナビスを合法化して商品として課税することを主張している。普通は、自分たちの選択した商品を課税対象に加えるように要求するようなコミュニティはないが、背景には、カナビスによる経済効果が巨大で社会に多大な貢献ができるという自信も横たわっている。

カナビスを合法化すればどれだけの税収効果があるかを試算した研究もいくつかあるが、ミルトン・フリードマンらノーベル経済学賞受賞者3人を含む500人の経済学者が署名してホワイトハウスに提出したボストン大学の経済学者 ジェフリー・ミロン教授の研究 が最もよく知られている。

報告書 では、カナビスの禁止法を改めてアルコールと同様に課税して規制管理するシステムを採用すれば、政府が年間に支出している法執行に伴う経費のうち77億ドルが節約でき、さらにカナビスに対してアルコールやタバコと同等に課税すれば税収は62億ドルになり、経費の節約とともに税収で毎年140億ドル以上の効果が見込めると指摘している。

また、2007年3月に発表された ハワイの研究 では、合法化すれば州財政は、年間の税収が2300万ドル増える一方で、取締まりの経費1000万ドルが軽減され、合計で3300万ドルの効果があると計算している。

同様に、カリフォルニアNORMLの試算では、医療と嗜好カナビスと合計すると州民全体では年間60億ドルがカナビスに消費されており、もし、大人のカナビス使用を合法化して規制・管理・課税すれば年間15億〜25億ドルの税収になるとしている。

カナビスの少量販売が事実上合法化されているオランダの場合は、コーヒショップの年間総売上が30億ドルで,税収は3億4000万ドルになっているという 報告 がある。この税額に対して、アメリカのほうが人口で10倍以上でカナビス使用率も高いことも考慮すれば、ミロン教授の試算も現実味を帯びてくる。

カナビスが地域経済に与える影響を試算したものとすれば、人口55万人の コロラドスプリングス の例があるが、合法化されていない現在でもカナビスは地域経済の重要な担い手になっており、小売規模8000万ドルで雇用1100人分に相当するとしている。

また、2006年末に発表されたジョン・ガットマン氏の試算では、カナビスはアメリカ最大の換金作物 になっており、カナビス生産量を全国規模でみれば358億ドルで、コーン(230億ドル)、大豆(176億ドル)、干し草(122億ドル)を凌いでいる、と結論を出している。

さらに、1937年にアメリカで禁止法が成立した当時は、カナビス作物の処理の機械化が進み、カナビスは巨万の富を生む新作物 (ポピュラー・メカニックス・マガジン 1938年2月号)と期待されていたこともある。

カナビス・コミュニティでは繰り替えしカナビスを合法化して課税するように主張しているが、連邦当局は全く無視する一方で、収入を得たならば違法であっても課税すると言う。

このことはある面で、アメリカ独立戦争当時のイギリスに似ているようにも思える。当時、イギリス領であったアメリカの移民たちは、イギリス本国から税を課せられていながら自ら選出した代表をイギリス議会へ送ることが許されていなかった。これを不服とした移民たちは、「代表なくして課税なし」 (No taxation without representation) として独立への気運を高めた。

今日では、代表なしの課税はイギリスの行った重大な不法行為の一つとして位置づけられているが、現在においては、少なくともカナビス・コミュニティは、もともと税金を逃れようとして犯罪を犯すつもりはないわけで、この点ではアメリカの国税庁の主張は独立の精神を忘れているとは言えまいか?

これも単なる歴史のアナロジーとも言えるかもしれないが、現在の状況は禁酒法が撤廃された時代と経済が似ているようにも思える。

禁酒法は、1920年に始まり14年後の1933年に終わったが、終盤の1929年から1933年にかけては世界的な大恐慌が起こり、1932年後半から1933年前半にかけてピークをむかえている。

1932年の大統領選挙では、経済を立て直すためにニューディール政策を掲げたルーズベルトが当選したが、彼は、税収の落ち込みをカバーする目的もあって禁酒法の撤廃も公約に掲げていた。

また、第2次大戦中は、ヘンプ不足から栽培が奨励され、「ヘンプで勝利を」 という国策映画まで製作されたこともある。

このように、アメリカは困ったときにはヘンプ頼りになることがある。現在は、第2次大戦後では最大の経済危機がおとずれるという予想もある中で、起死回生の政策としてカナビス合法化が取り沙汰されてもおかしくないかもしれない?