期待されるカナビス・ピルの臨床試験

天然のカナビス抽出液から製造した「カナドール」

Source: This Is Derbyshire
Pub date: 15 May 2008
Cannabis Pill Helped Me To Walk Again
Author: Claire Duffin
http://cannazine.co.uk/medical-marijuana/
medicinal-cannabis/cannabis-pill-helped-me-walk-again.html


カナビスの抽出液から作った錠剤の臨床試験に参加した多発性硬化症の男性の一人は、この7年間で初めて車椅子から離れることがでるようになった。

トニー・ウイザースさん(64)は、今では、この錠剤がイギリスで同じ病気に苦しむ8万5000人にとって極めて有力な突破口になるに違いないと感じている。元空軍の管制官でダービーのアルバストンに住むウイザースさんは2000年以来車椅子の世話になっていたが、主治医の薦めでカナビス錠剤の12週間の臨床試験に参加した。

以前は、痛み、けいれん、不眠に悩まされて下半身をコントロールすることもできなかったが、試験期間が終わって医師たちと結果を最終評価した時にはその改善効果は非常に明らかで、医学生たちの前に立って10分のスピーチができるほどまでになっていた。

「その時、教授は3人の学生を連れていましたが、私に多発性硬化症について彼らに説明してほしいと頼まれたのです。私の体は非常に安定していましたので、車椅子から立って杖で体を支えて話したのです。このようなことは長い間できませんでした。」

「教授もこれほどの改善を目の当たりにして本当にびっくりしていました。カナビス・ピルは、私の体をコントロールできるようにしてくれたばかりではなく、人生をコントロールすることもできるようにしてくれたのです。」

多発性硬化症は人間の中枢神経系が障害を受ける神経疾患で、患者の一部では、カナビスの成分によって痛みや筋肉のけいれんが緩和されることが知られている。

通常でも、体内ではカナビスの成分と働きの似たエンドカナビノイドと呼ばれる化合物が自然生成されているが、それが神経のレセプターと結合して体の動きをコントロールしていると考えられている。しかし、多発性硬化症になると、そのメカニズムが損傷を受けて体が正常に機能しなくなる。

ウイザースさんのこの結果について、ダービーの多発性硬化症グループの患者たちは、新しい希望の光が見えてきたと勇気づけられている。

松葉杖を頼りにシンフィンに暮らすビリー・ヘーアさんは、「とても素晴らしい」 と声を詰まらせていた。また、グループの代表を務めるポール・ゲーツさんも、「とても勇気づけられます。トニーが眠れるようになったことはとても大きなことです。本当に多くの患者たちが眠れないで苦しんでいるのです」 と話している。

また、この臨床研究にも関わっているノッチンガム・クイーンズ医学センターのクリス・コンスタンチネスキュ神経学教授も、このカナビス・ピルがこのように劇的な改善をもたらす助けになることが分かって、「とてもエキサイティングな研究になった」 と語っている。

臨床試験は現在も続いており、最終的には18才から64才までの400人が順次参加することになっている。カナドール(Cannador) と呼ばれるこのカナビス・ピルを開発しているのはドイツ・ベルリンの臨床調査研究所で、ドイツのヴェレダAGがスポンサーになってイギリス・プリモスのペニンスラ医科大学が臨床研究を担当している。

第3フェーズの臨床試験はプラセボつかった2重盲検法で行われているので、ウイザースさんに与えられたのが実際には効果のないプラセボだった可能性もあるが、彼は自分に与えられたのが本物のカナビス・ピルだったと信じている。「以前の状態とははっきりと違いを自覚できましたから、間違いなく本物です。」

ウイザースさんは、以前、カンブリアのマークとレズリー・ギブソンさんからCanna-Bizと呼ばれるチョコレートを分けてもらって痛みを抑えていたこともある。二人は、多発性硬化症患者のために無料でカナビス入りのチョコレートを配っていたが、告発されて2007年1月に執行猶猶予の有罪判決をうけた後に配布を中止している。

今回、ウイザースさんは試験開始後数週間した時点で、チョコレートとの効き方の違いに気がついたと言う。「けいれんが少なくなって、間隔も遅くなったのです。車椅子から立てるようにもなりました。でも、いったん服用を中断すると、すぐに元の状態に戻ってしまうことも分かりました。」

臨床実験に参加することを薦めてくれたのは主治医でダービー市立病院の名誉顧問でもあるマーガレット・フィリップス医師で、「もしこの研究が多発性硬化症患者さんたちの恩恵になるのならば、医師の処方で利用できるようにすべきです。本当に効果があるかどうか、われわれは綿密に調べる必要があります」 と語っている。

天然のカナビス抽出液を使ってカナドール(Cannador) を開発しているのは、ドイツ・ベルリンの非営利団体である臨床調査研究所(Institut fur Klinische Forschung)で、かなり長い歴史を持っている。

2003年11月にはすでに657人で臨床研究の結果を発表しているが、この時は、患者からは役に立ったという声も多かったものの、規定された統計処理では有意差を示すことができずに失敗している。

奇跡の薬草、医療薬に  (2005.2.5)
Cannabinoids for treatment of spasticity and other symptoms related to multiple sclerosis (CAMS study): multicentre randomised placebo-controlled trial  Lancet, Volume 362, Issue 9395, 8 November 2003, Pages 1517-1526

この時に使われたのはTHCが主体となった錠剤だったが、その後改良され、現在では、1カプセル中にTHC2.5mgの他にもCBD1.25mgが含まれている。CBDには精神活性はないが、最近では治療効果が高いことが知られるようになって注目を集めている。

今回の臨床試験では、1日に2回1カプセルづつから開始して3日ごとに1回1カプセルづつ増量し、最高1日10カプセルまでに制限した上で最適服用量を決めている。
Multiple Sclerosis and Extract of Cannabis Study

天然のカナビス抽出液を使った製剤としては舌下型スプレーのサティベックスもよく知られているが、1回分のスプレーには、THC2.7mgとCBD (カナビジオール) 2.5mgが含まれている。思惑渦巻くカナビス・スプレー・サティベックス

また、オランダ政府が提供している 医療カナビス も、2007年年の2月から、従来のベドローカン(THC18%)、ベドノビノール(THC11%)に加えて、多発性硬化症患者向けにハイになりにくいベディオール(THC6%、CBD7.5%)の販売も開始している。
オランダの製薬会社、5年以内のカナビス・ピル販売に照準  (2008.1.23)
オランダ、カナビス・ベース医薬品の開発を推進  (2007.11.7)

このように最近では、臨床結果を反映して、多発性硬化症向けの製品はCBDを多く含むことが当たり前になってきている。この記事では、Canna-Bizチョコレートとの効き方の違いについて書かれているが、Canna-BizはTHC主体の普通のカナビスで作っていることが影響しているのかもしれない。

多発性硬化症患者向け医療カナビス・チョコレート配布運動
病気を良くしたいのがどうして犯罪なの? Canna-Biz Two インタビュー  (2006.12.19)

いずれにしても今回の臨床試験で懸念されるのは、錠剤にように発現が遅いと二重盲検法ではプラセボとの差が出にくいということが上げられる。発現が遅いとその分だけ効果を確実に自覚できず、本当に痛みが軽減したかどうか確信が持てないことがあるのに対して、逆にプラセボを投与された人でも一部は薬が効いていると思い込みやすいので、効果の差が狭まって分かりにくくなってしまう可能性があるからだ。

2003年の失敗もこの影響が大きかったのではないかと思われる。実際に、最近行われてサティベックスの最終臨床試験でもプラセボと十分な統計的有意差を示せずに失敗している。サティベックス、再び臨床試験に失敗、プラセボと十分な統計的有意差を示せず  (2008.4.8)

これに対して、天然のカナビスを喫煙する場合は、発現が早く効果のピークが鋭いので確実で痛みの軽減が自覚しやすく、しかも、THCがゼロのプラセポ・カナビスを吸っても効果のないことがすぐに分かるのでプラセボ効果が出にくい。このために、二重盲検法実験でもカナビスの場合は、医療効果がはっきり表れやすい。