オランダ国境の都市が

ドラッグ・ツーリスト対策サミットを計画



Source: Deutsche Welle
Pub date: October 29, 2008
Dutch Municipalities Plan New Campaign Against Drug Tourists
http://www.dw-world.de/dw/article/0,2144,3749750,00.html


オランダの市政を担う当局者たちの団体であるオランダ市政協会(VNC)は、国のソフトドラッグ政策を目当てに押し寄せるドラッグ・ツーリストの流れを止めるために何をすればよいのか話し合うことになった。

10月28日に発表された声明文によると、11月の第3週にマーストリヒト市でソフトドラッグ・サミットを開催し、どのようにしたらドラッグ・ツーリストの意欲を削ぐことができるかに知恵を搾ることになった。また、ドラッグ関連の犯罪の削減についても検討することになっている。

このサミットの開催は、南西部の国境の街であるローゼンタールと隣接するベルヘン・オプ・ゾームの両市が先週、ドラッグ・ツーリストの迷惑流入を阻止するために市内のすべてのコーヒーショップ(4軒づつ計8軒)をできる限り早急に閉鎖するという決定を下したことに端を発している。

サミットには、ドイツとベルギーの国境に接する市が招かれている。サミット終了後には、VNCでまとめた統一見解を政府に提示することになっている。VNCは、政府がベルギーとドイツとの間で国際的なソフトドラッグ政策についての交渉を開始させることに目標を置いている。

オランダは、およそ30年前に、少量のソフトドラッグに対しては実質的に 「法執行」 しないという寛容政策を導入している。法的にはカナビスの所持や栽培はオランダでも違法になっているが、警察当局はそれを黙認し、裁判所も組織犯罪ではない個人の被告に対しては有利な判断を示すことが通例になっている。オランダでは、ソフトドラッグのカナビスは、許可を受けたコーヒーショップで実質合法的に購入して使うことができるようになっている。


ドラッグ関連犯罪が深刻なマーストリヒト

マーストリヒトのジェラルド・リーアス市長は、現在のオランダのドラッグ政策を 「偽善」 から出来ている主張し、そのために、ドラッグ関連の犯罪が発生し、ヘロインなどのハードドラッグの販売や流通まで増加させていると言う。

マーストリヒトは、ドラッグ関連の犯罪我最も多いオランダの都市の一つで、毎年150万人以上のドラッグ・ツーリストが訪れる。市には16軒のコーヒーショップがあるが、国境地帯にはない同規模の都市と比較すれば10軒以上も多くなっている。

さらに、警察の推計によれば、100軒以上の違法なソフトドラッグ・スーパーマーケットがあり、コーヒーショップで購入可能な5グラムの制限を超えて多量にドラッグを購入することもできる。

リーアス市長は、マーストリヒト警察の扱う犯罪がハーグなどの大都市地区の3倍にも達し、その大半がドラッグ関連だと言う。また、警察当局は、ドラッグに関連した殺人事件も毎年のように増えていると指摘している。

また、ドイツ国境地帯で特に深刻なのがエンスヘーデ市で、国境に隣接しているために多数のドイツ人ドラッグ・ツーリストが合法カナビスを味わいにやってくる。


これまでのドラッグ・ツーリスト削減努力

オランダ政府もドラッグ・ツーリストを抑制するために過去にさまざまな方法を試してきた。例えば、コーヒーショップへの入場をオランダ人だけに制限するために会員カードの発行を計画したり、パスポートの提示を厳格化したりしている。しかし国籍で差別することはEUの条約で禁止されていることもあって成果を上げるには至っていない。

しかし、内外からの政治的な圧力で コーヒーショップの軒数 は減少を続けている。2005年には730軒ほどのコーヒーショップが営業しているが、1997年には1180軒もあった。その後2年間で840軒あまりに整理され、1999年以降は毎年数%づつ減り続けている。しかしながら、コーヒーショップ軒数の減少が実際にドラッグの消費やドラッグ・ツーリストを減らす結果を導いているかについてははっきりしていない。

来年の春までにすべてのコーヒーショップ閉鎖するという決定を下したローゼンタール(8万人)とベルヘン・オプ・ゾーム(6.5万人)の ニュース は、いろいろな意味で驚きを持ってむかえられた。

一つには、市内のすべてのコーヒーショップを閉鎖するという例はこれまでになかったこと、人口10万人以下の都市では2000年以降あまりコーヒーショップ数に変動がなく、閉鎖はほとんどなかったこと、さらに特別な観光地というわけでもなく、いままでドラッグ・ツーリスト問題が報道されてこなかったこと、また市長の指摘している大きな迷惑の内容が交通渋滞や危険・違法駐車・立ち小便などで必ずしもドラッグ・ツーリストばかりが問題ではないこと、などが上げられる。

それだけに 「突然」 という印象が強いが、今回の決定については、自分のところの問題を他の市に押し付けるだけだとして近隣の ブレダ などから非難の声が上がっている。マーストリヒトのリーアス市長も次のように話している

今回の決定は単に問題を移動させるだけです。ローゼンタールはブレダに問題を押し付け、さらにブレダからロッテルダムに移動していきます。最終的に何が悪いかと言えば、違法界に問題を委ねてしまうことになることなのです。ドラッグの密売業者たちは、今日新しい顧客をたくさん獲得したことを祝って祝杯を上げているに違いありません。カナビスに対する需要はなくなることはないのです。これまでの供給源がなくなれば、新しい供給チャンネルを探すようになるだけなのです。」

ドラッグ・ツーリストの迷惑押し付け問題は、ベルギー側でも起こっている。これまでベルギーのカナビス・ユーザーの最大の供給源になってきたツルネゼン市では、オランダ最大のコーヒーショップである チェックポイント が5月に在庫制限の大幅違反で閉鎖され、もう1軒のマイアミも司法当局によって9月末に強制閉鎖された。

これにより、ツルネゼンの供給源を失ったベルギーのユーザーは、ベルギー側に隣接するセルサーテ市などの路上で地下ディーラーから購入するようになり一気に迷惑問題が拡大した。たまりかねたセルサーテ市長 は、ツルネゼン市長に対してマイアミを即座に再オープンするように要請する事態になっている。

しばしば、オランダのコーヒーショップをカナビス問題の元凶のように論じて、すべてのコーヒーショップを閉鎖すれば問題は解決すると主張する人もいる。

しかし、オランダで生産されている カナビスの80%以上が輸出 されており、カナビスの大半はコーヒーショップ以外で密売されていることを考えれば、コーヒーショップを閉鎖しても何の問題解決にならないことを示している。

カナビス生産にギャングが乗り出してくるのはそれが禁止されているために大儲けができるからだ。カナビスを合法化して、各国でコーヒーショップでの販売を認め、生産はアルコールと同様に指定業者だけに認めてやすく供給できるようにすれば、ギャングの出る幕はなくなる。

オランダの司法関係者調査、半数以上がカナビスを合法化すべき  (2008.10.10)
オランダ警察協会会長 カナビス栽培を合法化すべき  (2008.4.23)
観念論ではなく実務的なドラッグ政策を オランダの3市長と2議員が共同声明  (2008.3.4)
オランダ、もっと柔軟なドラッグ政策が必要、元首相、現市長らがバルケネンデ首相に書簡  (2007.12.12)