メキシコのドラッグ少量所持の合法化

全面合法化でなければ効果は期待薄


Source: Cannabis Culture
Pub date: 5 May 2009
Is Mexico About To Decriminalize Drug Possession?
Author: Jeremiah Vandermeer's blog
http://www.cannabisculture.com/v2/node/17811


大手メディアでは ロイター 以外はあまり取り上げていないが、メキシコでは、個人使用目的のドラッグの少量所持が合法化されるような情勢になっている。

先週のメキシコ上院議会では、5グラムまでのカナビス、500ミリグラムまでのコカイン、および極少量のヘロインとメソアンフェタミン(覚醒剤)の所持を合法化する法案が通過し、その後下院の承認も得ている。法案が成立するためには、さらにフィリップ・カルデロン大統領の署名が必要だが、現在はそれを待つ状態になっている。

2006年にも今回と同様な法案が議会を通過しているが、その時はアメリカのブシュ政権から巨大な圧力をかけられて当時のビンセント・フォックス大統領は拒否権を発動して成立しなかった。しかし、今回はそうした圧力もなく、カルデロン大統領も署名することが見込まれている。

StoptheDrugWar.org のフィリップ・スミス氏は、「今回の法案は大統領の率いる国民行動党(PAN、キリスト教民主主義の中道右派政党)によって押し進められてきたばかりではなく、2006年のようなワシントンからの脅しや圧力がないので成立する見込みが高い」 と書いている。

「また、カルデロン大統領がカルテルとの戦争に軍隊まで派遣して大々的に取り組んだのにもかかわらす、現在のメキシコの状況は2006年当時よりもさらに悪化しているという背景もある。」

確かに、メキシコにとっては今回の法案が通過すればドラッグ法改革に向けた大きなステップとは言えるが、だが、メキシコ国境のドラッグ・カルテルとの果てのない戦争による暴力を減らす効果はほとんど期待できそうもない。

それは、法案が成立しても少量のドラッグにしか影響はなく、大規模な密売活動を減らすにはほとんど効果がないからだ。さらに悪いことには、販売目的の疑われる少量所持者を地域レベルの警察であっても逮捕できるようになるために、かえって精力的に取締まるようになり、さらなる暴力を助長しかねない懸念もある。

結局、カルテルのビジネスを弱体化させるには全面的な合法化を行って規制管理する必要がある。決着はストリートでの戦争で付くわけではなく、法廷での論争によってのみ付けられる。

最近は世界各地でますますカナビスやドラッグ法の改革の動きが活発化しているが、「合法化」という言葉がいろいろな意味で使われているために混乱を招いている。

「合法化」のほかにも「非犯罪化」という言葉もよく使われるが、厳密に言えば「非犯罪化」は、刑罰ではなく罰金などの民事罰で対応するということで、その意味においては基本的には違法であることには変わりはない。

これに対して「合法化」は、一定の範囲内で刑罰も民事罰も科せられない状態のことを言う。今回の合法化は、少量のドラッグの所持という範囲内のことで、例えば個人使用目的のカナビス植物の少数栽培などは含まれていない。

また、所持量が個人目的かどうかについては最終的に裁判所が決めることにもなっており、その意味においては、「合法化」と言っても、「非犯罪化」と「非優先化」 の組み合わせとほぼ同じといってもいいかもしれない。

一方では、「全面合法化」という言葉も誤解を招きやすい。例えばカナビスの場合、全面合法化といってもお茶のように誰にでも製造や販売、使用をできるようにすることではなく、アルコールなどのように合法化して課税・規制管理することを指している。

つまり、栽培・流通・販売はライセンスを受けた業者だけに認められ、購入して使うことは成人に限定されることが前提になっている。

基本的に「非犯罪化」では違法行為になっているので課税・規制管理といった概念は出てこないので、最近の経済危機に関連した議論の中では「合法化」しか出てこない。

だが、実際にはそうそう単純には色分けすることは難しく、それもまた用語の混乱の原因になっている。

例えば、オランダのコーヒーショップでのカナビス販売は実質的には合法化されているのと変わりわないが、法的には「容認」という半合法化状態になっている。この状態は、民事罰の対象になる「非犯罪化」とも違う。

また、コーヒーショップがカナビスを栽培したり仕入れることは違法となっているので「完全合法化」にもなっていない。

オランダの販売が認められていて仕入れが禁止されているという根本的な矛盾はいわゆるバックドアと言われるもので、容認政策が始まった1970年代からずっと問題になっている。しかしその内容については、当初と現在では全く異なっている

当初問題になったのは、オランダではカナビスが生産されておらずレバノンやモロッコから密輸入されたものだけだったので、バックドアを認めることは国際的なドラッグの密輸入を認めてしまうことになるためだった。

しかし80年代後半になると、オランダでもシンセミラの家庭内小規模栽培が本格化してコーヒーショップの仕入れの大半は国産のシンセミラに変わった。このことでカナビスの自給が可能になって密輸入問題は自然消滅し、バックドア問題もさほど深刻な問題ではなくなった。

しかし、2001年にイギリスでカナビスは非犯罪化される情勢が強くなったことから、イギリスの密売業者がオランダに買い付けに来るようになって状況が一変した。彼らは金に糸目をつけなかったので、それまでコーヒーショップにカナビスを卸していた家庭内栽培者たちもイギリス人を相手にするようになった。

また、同時期にオランダではカナビスを敵視するバルケネンデ政権が発足して、カナビスの違法栽培の摘発に力をそそぐようになった。このことで、長らく家内栽培で良質のカナビスを生産していた人たちのリスクも高くなり止める人がたくさん出てきた。

しかし絶対量が不足するようになると、ギャングたちが大規模栽培にのり出してきてすぐにカナビス市場を席巻するようになった。その結果、現在のオランダのカナビス生産は年間500トン25億ユーロで輸出が80%を占める までになってしまった。

このように、オランダでは、カナビスの違法栽培の摘発がますます地下組織を肥大化させる結果を招いている。

カナビス生産にギャングが乗り出してくるのはそれが禁止されているために大儲けができるからだ。また、市場を独占すれば好きなように価格を設定できるので、ギャング同士の抗争も激しくなる。つまり、リスクもあるがそれよりも得られる利益のほうがはるかに多いことが暴力の動機になっている。

その意味では結局はすべて経済の問題に帰着する。とすれば、リスクに見合うほどの利益にならないようにすればギャングの問題はなくなる。栽培を合法化して、アルコールと同様にライセンスを受けた人だけが合法供給できるようにすれば、ギャングのものは売れなくなる。

今回の記事でも、全面合法化しない限りはギャングの影響力を弱体化できないと指摘しているが、さらに言えば、密輸出の割合が大きいので、アメリカも完全合法化しない限りはギャングが手を引くことはないだろう。そのことはオランダの例を見てもわかる。

確かに、反対派が言うように、合法化して課税・規制管理するようになってもブラック・マーケットはなくなることはないだろう。例えば、正規のマーケットがあっても、ゲームやDVDの違法コピーのブラック・マーケットがなくなることはない。

しかしながら、実際には大多数の人は正規市場で買う。それは、製品の品質が保証されていていることや、あちこちで値段の比較ができること、決まった場所と時間に行けばいつでも対応をしてもらえること、現物を確認してから購入できること、返品ができること、予約ができることなどの違いがあるからだ。

いずれにしても、正規市場で販売されている商品については、ブラック・マーケットはせいぜい隙間でしかなく、禁止されて正規市場の存在しない場合とは根本的に異なる。問題は、禁止法が正規市場の存在を許さないことであって、正規市場の隙間にブラック・マーケットがあることではない。

また、ポルトガル のように合法化ではなく「非犯罪化」で効果を上げている例もあるが、かなり特殊な例で、メキシコやオランダなどと違って国内に有力なドラッグ生産組織がないことが背景になっている。

これは、歴史的に海外との交易拠点として栄えてきたポルトガルでは、どのようなドラッグでも自分の国を通過するためにわざわざ生産する機運が大きくなることはなかったからだ。こうした状況では、「非犯罪化」するだけでも効果が出てくる。だが、メキシコは違う。

メキシコ議会でカナビス合法化フォーラム (2009.4.15)
メキシコ、コロンビア、ブラジルの元大統領 カナビスの合法化を提唱 (2009.2.11)
メキシコ大統領、カナビスの個人使用限度量の法制化に拒否権を行使 (2006.5.4)

ドラッグの合法化が暴力を終わらせる メキシコ国境の際限のない暴力と腐敗 (2006.7.28)