グローテ・マルクト

オランダの都市にはたいてい中心に広場があるが、ハーレムのグローテ・マルクト広場は他のどこの都市よりも明るくて開放的で居心地がいい。最も大きな建物である聖バフォ教会の重厚なゴシック建築でさえ何となく親しみやすい。威厳がないわけではないが、すぐそばに立つ銅像はよくあるような王侯貴族や軍人などではなく、活版印刷の発明家コステルが活字を掲げている姿なのだから嬉しくなってしまう。





中世に建てられ北方ルネサンスの傑作といわれて食肉ギルドの建物(1603年)もシティーホール(市役所)の建物もそれなりの存在感はあるものの目立ち過ぎることもなく全体に調和している。シティ・ホールの横の自警団のガード・ハウスが一歩引いて控えめなのも好ましい。レストランがカフェ・テラスに椅子を出し、みんなゆっくりと食事をしたりお茶を楽しんでいる。がなり立てるBGMなどなくせかされることもない。







シティ・ホールのほうで何やら歓声があがった。振り返ってみると結婚式だった。まさにそのためにデザインされたかのような階段の上から幸せ一杯の新郎新婦が親戚や友人に囲まれて広場の皆んなに手を振っていた。思わず拍手してしまうほどこちらも幸せな気分になった。いかにも市民が主役の社会らしい。オランダでは結婚式は市長さんの司会でシティー・ホールで行うのが普通だ。ちなみに市長は任命制で選ばれるから選挙目当てというようなこともないらしい。





月曜と土曜には広場に市がたつ。食料品などごくありふれたものばかりだが何となくどれもうまそうに見えてしまう。それにしてもカボチャやさんという商売が成りたつのか?  ハーリングもあった。












広場からすぐのところにコリー・テンボーム博物館がある。第二次大戦中、時計商だったテンボーム家は、アムステルダムのアンネ・フランクの家と同じように、ドイツの迫害されたユダヤ人を匿って助けた。しかしやがて発覚して一家は収容所に入れられた。ようやく生き残ったコリーは戦争の悲惨さを訴え続けた。ハーレム人の誠実さと良心が伝わってくる。看板の上の時計が止まるとこのないように願った。



コステル像の先の道路を少しいくとハーレムで最も古いコーヒーショップ、ティーハウスがある。コーヒーショップという呼び方が一般化する前からあったのだろう。小さな店だが過ぎし日の趣きを感じることができる。常連に支えられているためか品質は良かった。



夜の広場も美しい。広場の一角にはアマデウスという小さなきれいなホテルがある。バフォ教会には有名なパイプオルガンがあって、10才になったウォルフガング・アマデウス・モーツアルトがハーレムにオルガンを弾きにきたとき泊まった宿だという。そんなことを考えていると時代をスリップして静かさと暗闇に音楽が溢れてくるような気がしてしまった。





(2003年10月)


ハーレム・フラワー・カーペット2000
http://www.amadeus-hotel.com/