ブラウン大学の調査

医師はカナビスを治療に使いたがらない

Source: San Francisco Chronicle (CA)
Pub date: December 2, 2007
Subj: Physicians unlikely to embrace marijuana as medicine
Author: Keith Humphrey, professor of psychiatry at Stanford Medical School.
http://www.safeaccessnow.org/article.php?id=5312


先月、カリフォルニア太平洋医学研究センターが、カナビスの成分には 乳癌の攻撃的な腫瘍の成長を抑える働きがあると発表 したが、熱狂したのは乳癌の女性ばかりでなかった。カナビスが本格的な医薬品としてすぐに認められるべきだと主張している活動家たちもまた喝采した。

もちろん、植物からも効果のある医薬品は作られている。例えば、ジゴキシンはフォックスグローブ草から、アトロフィンはベラドンナ、キニーネはキナの木からから作られている。その他にも植物から作られた医薬品も多い。同様に、カナビス植物もカナビノイドとして知られて成分には治療効果がある可能性が含まれており、今回の乳癌研究ではその一つであるカナビジオールが使われている。

また、カナビスの精神効果(ハイ、幻覚、気分転換)を引き起こす主要成分であるTHCの治療効果を研究している人たちもいる。少なくとも、THCには、化学療法にともなう吐き気や多発性硬化症に関連して起こる筋肉の痙攣などについては一部の患者に恩恵をもたらすことも示されている。


賛成している医師は極めて少数

しかしながら、カナビス・シガレットを処方することに情熱を抱いている医師はごく少数に過ぎない。実際、ブラウン大学がおよそ1000人に医師を対象に行った調査では、医療カナビスに賛成している一般大衆の多さに比較すれば、医師で賛成している人は極めて少ないことが示されている。

医学分野でも年配の世代では、大半の人たちはキャメル・ブランドのタバコ・シガレットを競って吸っていた。タバコ産業は、こうした背景を逆手にとって医師と喫煙の関連を宣伝で世論を煽った。しかし、これが医師の信用を傷つけることになったとして、使われたポスターは今もカリフォリニア大学サンフランシスコ校の図書館に展示されている。

こうした苦い歴史的な経験は、煙の吸引でどのようなことが起こるのかという数十年の続く研究の口火となり、木の煙も含めてあらゆる物質の煙が急性及び慢性の呼吸器障害を引き起こすというエビデンスの蓄積となって表れてきた。このことで、多くの医師たちが喫煙医薬品に懸念を抱くようになった。

さらにまた、植物の喫煙は医学的検知から見て、純度が不安定で標準服用量を決められないという欠点も持っている。農薬の散布などの不純物も混じっている場合もあり、患者には副作用の危険が増え、医師には医療過誤のリスクとなって跳ね返ってくる。


安全のために必要な治療成分の純化と標準化、摂取法の開発

例えば、カリフォルニア太平洋医学研究センターの研究チームは、実際のところ,カナビス喫煙で正確な量のカナビジオールを摂取することは不可能だと指摘している。また、カナビジオールには精神活性はないものの、喫煙では一緒に摂取したTHCによって精神効果が現れて、一部の患者には嫌悪療法になってしまうという問題もある。

いつの日にか、カナビスのすべての治療成分が純粋で標準化したものにならない限り、燃焼することなしに安全に摂取できるようにはならないだろう。

ドロナビノールという認証済みの液体THCも何年も前から正式に処方できるようになって、ある程度の効果も認められているが、摂取後の吸収が遅いという欠点があって一部の患者からは不評を買っている。これに対しては、いくつかの製薬会社が、喘息などの治療を目的として発現が早く標準的な服用量が得られる吸引型霧状ドロナビノールを開発にあたっている。

また別のアプローチとしては、カリフォルニア大学サンフランシスコ校で、カナビス・シガレットの燃焼毒を出さないで温度で加熱してTHC蒸気を吸引できるバポライザーのテストが行われている。


依存性の危険を増強

確かに、技術開発が成功すれば、THCをすすんで処方する医師も出てくることは間違いない。しかしながら、成分が純化されて発現の早い吸入器が使えるようになることで、カナビスの時よりもかえってTHCの中毒リスクが高まるとしてやはり反対する医師たちもいる。

医薬品中毒の専門家たちはこうした可能性に敏感で、実際ブラウン大学の調査でも、他の分野の専門医たちに比べても医療カナビスにより消極的であることが示されている。

一般的に言って、植物をベースとした成分は処理して純化がすすみ、摂取後の発現が早くなればなるほど依存性も強くなってくる。それは、コカの葉から作られるコカインや、ケシから作られるモルヒネのことを考えればわかる。植物の成分は精製がすすむほど強力になり、注射や喫煙などより効果の得られる摂取法が使われるようになる。

つまり、摂取法の開発がすすめばすすむほど、そのこと自体が医薬品としてのTHCの純度や強さを高めることになり、より依存性の危険を増強してしまうことにもなる。将来の研究によってこのような難題が解消されない限り、医療現場ではTHCは端役に過ぎず、本格的に使われることはないだろう。

この記事の筆者は、スタンフォード医科大学の精神科の教授なので、最近の話題なども取り上げて医師として説得力のある話し方をしているが、実際には、カナビスのこと自体への理解や知識はあまり深くはない。

この記事には、医師たちが医療カナビスを語るときの典型がよく現れている。その一つは、カナビスを他の医薬品の類推をベースにして語ること、もう一つは、医師の立場や見方が中心になって患者の生活や意見を軽く見ている点にある。

一般の多くの人たちは医療関係者だからカナビスのこともよく知っていると思っているが、医療関係者のほうも自分が専門家というプライドがあるから、質問されればそつなく答えようとする。しかし、大抵の場合はさまざまな制約で、自分ではカナビスを試したこともなく、患者に接した実体験にも乏しい。

問題の根本は、いろいろな面でカナビスが普通の医薬品とは根本的な違いがあるにもかかわらず、普通の医薬品の知識をベースにカナビスを連想論で語ってしまうところにある。それが間違いを起こす。その点では、医療専門家であることがさらに誤解と偏見を拡大する結果になっている。

確かに、カナビスを喫煙した場合には煙のロスが多くその量を把握できないので摂取量を正確に知ることはできない。だが、実際には、効果を感じながら摂取量を調整できるのでそのことが問題になることはあまりないが、どうしても摂取量を正確に決めたい場合には、ボルケーノ・バホライザーを利用すれば簡単にできる。

ボルケーノ・バポライザー は、気化する段階と摂取する段階が完全に分離されて、カナビスの気化した成分をいったんバルーンに貯めるようになっているので、同じ種類と量のカナビスを同じ温度で同じ時間で気化させれば、いつも同じ密度の蒸気を同じ量だけ作ることができる。

また、煙の場合でも、グラビティ・ボング を使えば一定量の冷めた煙を作り出すことができる。さらに、カナビスをチョコレートにしたり、メディカル・ティー にしたりしても一定の量を摂取できる。

カナビスは、医師が投与量や効果を把握できないから使えないというのは全くの見当違いで、そのことは、GW製薬が製剤化した サティベックス の場合を見ても分かる。

サティベックスは、天然のカナビスの抽出液を小型噴射装置に封入した舌下型スプレー製剤で、カナダで医薬品の認証を受けている。1回のスプレーで正確に100μLが噴射するように調整され、THC2.7mgとCBD (カナビジオール) 2.5mgが含まれている。

摂取は、吸収を迅速にするために舌下に噴射するが、人によって必要量が大きく異なるので、患者自身が自分に合った回数を探りながら毎日少しずつスプレー数を増やして最適量を決めるようになっている。患者自身が最適な量を決めるのは、医師が決めるよりもまざまな面で利点があるからだ。

カナビスの摂取量の自己調整は、単に服用する薬の量を決めること意味するわけではなく、さらに重要なことは血液中のカナビノイド濃度レベルの変化に合わせて回数や間隔を調整して日常生活を最適な状態を保つ意味もある。こうした調整は患者自身にしかできない。

朝昼晩と1日3回服用するのがいい人もいれば、晩だけがいいという人もいる。また、中には、少量づつ頻繁に服用することで血液レベルを常に一定に保って、ピークや谷をなくすることで状態が安定する人もいる。

少なくともカナビスの場合、医師の仕事は患者にこのような情報をアドバイスすることで、服用量や使い方を直接指示することではない。

(参照 医療カナビス神話 :服用量を標準化できないカナビスは医薬品としては使えない

近代薬学は、例えば、ケシから分泌したアヘンの有効成分を取り出してモルヒネを作りだしたり、ヤナギの樹皮の抽出エキスからサルチル酸を作り、さらに副作用の少ないアセチルサリチル酸(アスピリン)を化学合成することで発達してきた。

やがて、純度の高い単一成分の医薬品のほうが、扱いやすく効力も優れているという通念が生まれて、植物などから有効成分を取り出すよりも化学合成によって医薬品をつくることが主流となった。

アメリカ政府も、ヤナギの皮をしゃぶっているよりも精製したアスピリンのほうが安定してよく効くのだから、THCを化学合成すれば、天然のカナビスよりも安定して医療効果が高いものができると考えても何ら不思議ではなかった。

FDAは1985年に、ガンの化学療法にともなう吐き気や嘔吐の治療薬としてマリノールを医薬品として認可した。しかし、マリノールがカナビスに置き代わることはなかった。患者の大半が マリノールよりもカナビスそのものを使ったほうが効果の高い ことに気づいたからだった。

実際、2008年7月に発表された 神経因性疼痛モデル・ラットを使った動物実験 では、多種類のカナビノイドやテレピン、フラボノイドを含んだ天然のカナビスの抽出液のほうが、単独の成分しか含まないマリノールなどの合成カナビノイよりも抗痛覚過敏効果に優れていることが示されている。

結局、少なくともカナビスの場合は、さまざまな成分のシナジー効果でより高い医療効果が得られるわけで、わざわざ精製しなくてもそれ自体が完成した医薬品となっている。その効果は、純粋の化学合成医薬品では真似ることはできない。

(参照 ロンドン・キングス・カレッジの新研究 THCとCBDでは脳機能への作用が全く異なる

また、カナビスに含まれる60種類以上のカナビノイドには、成分構成に非常に大きなバラツキがあって標準化できないので、医薬品として失格であるという指摘もある。しかし、バラツキが大きいのはカナビスの品種の違いによるものであって、同じ品種を同じ環境で同じように栽培すれば、成分構成を高度に標準化することができる。

逆に、医療カナビスでは、さまざまなバリエーションの成分構成のものを用意できるので、それぞれの患者は自分の症状に合ったものを選択できるという利点にもなっている。

(参照 医療カナビス神話 :カナビスに医療効果があるならば、製剤・医薬品化したほうが安全で効果的

確かに、喫煙カナビスについてはいろいろな問題もある。しかし、医療カナビス患者の多くが喫煙を好んでいる という現実にも注目しなければならない。多くのユーザーが満足しているというこの現実は、タバコとは違って ポジティブな経験がそうさせていると解釈する必要がある。

例えば、医療の提供側の多くの人たちは、単純に、政府が正式に医療カナビスの提供を始めれば、患者の大半がコーヒーショップやストリートでカナビスを買わなくなるはずだと言っていた。だが、2003年9月にオランダで政府の医療カナビスの販売が始まったときには、1万から1万5000人の患者が政府の医療カナビスを利用するようになると見込まれていたが、実際にこのプログラムに参加したのは 1000〜1500人 に過ぎなかった。

また同年秋に医療カナビスの配布が開始された カナダの場合 はもっと悲惨で、保健省の委員会が2002年に発表した研究では医療目的でカナビスを使う人の数を120万人と予想していたが、2007年12月現在、政府から認定を受けている患者数は2329人で、そのうち、政府の提供している医療カナビスを利用している人はたった488人しかいない。

これらの例は、単に品質が安定していてバクテリアや異物混入などの危険のない医療カナビスを提供しただけでは、患者は決して満足しないことを物語っている。

これは、医療カナビス患者の多くが慢性的な疾患を抱えて日常生活を営んでいる人たちだということと関係している。カナビスのことをロクに知らない薬局で医療カナビスを買うよりも、コーヒーショップやディスペンサリーのようなコミュニティの中でいろいろな人と交わって実践的な情報と知識を得ながら、カナビスで 「喫茶」 するほうが生きていることを実感できるからだ。

医師には、医療カナビス患者がコミュニティのなかで生活しているというリアリティーを理解できない人が少なくない。

(参照 医療カナビス神話 :カナビス喫煙が医薬品として認証される可能性はない