イギリスの研究
カナビスが統合失調症を
増加させている証拠は全くない
Source: NORML Daily Audio Stash
Pub date: 30, June 2009
Cannabis has not shown “any evidence of increasing schizophrenia” in the UK
Author: Radical Russ
http://stash.norml.org/ cannabis-has-not-shown-any-evidence-of-increasing-schizophrenia-in-the-uk/
統合失調症ジャーナルの6月29日に発表されたオンライン版によると、イギリスでは1996年から2005年の間に統合失調症と診断された件数は増えておらず、カナビス使用や効力の増加と統合失調症の発症は無関係であることが確認された。
この調査は、イギリスのキール大学医学部の研究チームがイギリスの大規模診療データベース(GPRD、General Practice Research Database)をもとに分析したもので、発表された論文の アブストラクト には次のように書かれている。
カナビスの使用と精神病発症のリスクについては、2年ほど前に系統的なレビューが報告されており、交錯因子を取り除いた後でも僅かながらカナビスの影響が残るとしている。
この研究ではカナビスの使用と統合失調症が関連しているというモデルをベースにしているが、それに従えば1990年以降のカナビスの広がりとともに統合失調症も増加していることになる。
このモデルの要点は、次の3点に集約されている。
- 頻繁にカナビスを使用するユーザーの精神病発症リスクは、カナビスを全く使ったことのない人の1.8から3.1倍
- イギリスにおけるカナビス使用は1970年代中頃よりも大きく増加している
- 最もリスクが高まるのは、最初にカナビスを使い始めた20年後
このことを確かめるために今回の論文では、1996年から2005年にかけて統合失調症と診断されたケースについて、統合失調症と精神病の発症件数が1年間にどれだけ増えているのかを検証した。
調査では、レトロスペクティブにコホート分析したイギリス最大の診療データベース(GPRD)に登録されたデータをもとにしている。このデーターベースには、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北部アイルランドなどイギリス全土の183個所のデータが集積されている。その数は年間で60万人で、16才〜44才全体では約2.3%が登録されている。
調査結果では、1996年から2005年の間に統合失調症と精神病の発症率はいずれも変化しておらず、やや減少する傾向もみられた。こうした基本的な変化のなさや減少傾向については、いろいろな弁明もあるがどれも説得力は持っていない。
今回の研究においては、1996年から2005年にかけて、統合失調症または精神病が増加しているというエビデンスは全く見出されなかった。
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Assessing the impact of cannabis use on trends in diagnosed schizophrenia in the United Kingdom from 1996 to 2005
イギリスでは2007年に、カナビスが精神病を発症するというモデルを使ってイングランドとウェールズにおける統合失調症が2005年から2010年にどのくらい増加するかを シュミレーションした研究 も発表されている。
この研究は単にシュミレーションしただけで、モデルが適正であるかどうかについては問題にしていないと断っているが、これを伝えた ニュース・サイト では、カナビスが時限爆弾で、2010年の終わりまでには新たに統合失調症になる4人に一人がカナビスがトリガーになって引き起こされるとセンセーショナルに書き立てた。
いずれにしても、その2010年の終わりまで1年半となった現在でもカナビスによる統合失調症の増加を示す確定的な報告はなく、結局、今回の研究の結論と同じく、このモデルが成り立っていないことが証明されることが予想される。
確かに、一部の専門家たちはカナビスが統合失調症を引き起こすと主張しているが、いずれも同じようなモデルを前提にしたものか、あるいは個人的な感触をもとにした意見で正式な論文として報告されていないことも少なくない。むしろ最近では、カナビスは統合失調症の原因にはならないという研究報告が多くなってきている。
カナビスの単独使用による精神病のリスクはほとんどない (2008.05.01)
カナビスと統合失調症の新たな関係、カナビスで統合失調症の初期兆候が出現 (2008.11.06)
カナビス精神病という疾患は無実体、統合失調症の初期兆候が現れたもの (2008.11.12)
最新研究 カナビスと精神病の関係は弱い (2008.11.23)
統合失調症は5000人に一人、カナビスの健康リスクは増えてはいない (2009.01.27)
統合失調症は脳の遺伝的シグナル欠陥で起こる (2009.03.05)
イギリス政府は1年前に、ドラッグ乱用諮問委員会(ACMD)の科学者たちの勧告を無視してカナビスの罰則強化を 公式に表明 したが、その理由としてジャッキー・スミス大臣(当時)は、現在のカナビスが精神への悪影響が大きい「スカンク」で、それが市場の8割を占めるようになって危険が飛躍的に増大しているからだと盛んに力説していた。
今回の研究でそれが全く理由にならないことが明らかになったわけだが、本当はブラウン政権は今回の研究を知っていて無視していたことも再確認された。決定前に出された ACMDの勧告書 には、当時まだ正式に発表されていなかったこの研究のことにも触れているからだ。(8.8.2節)
だが、今回の論文の正式発表によって、ブラウン政権の罰則強化の決定がこうしたハードなエビデンスを無視した人気取りの政治的パフォーマンス以外の何ものでもなかったことがますます明らかになった。イギリスらしいと言えば言えるが…
さらにこの研究の扱いについても、普通に見ることのできるアブストラクトが本来のものよりも曖昧になっていたり、本文の書かれている論文を入手するのにさまざまな制約がかけられて事実上一般人では入手が無理になっているなど、外部からの介入があったのではないかという疑惑も指摘されている。
Cannabis and mental illness - the Keele Study UKCIA (2009.7.4)
Cannabis and mental illness - the Keele Study (more) UKCIA (2009.7.12)