イギリス政府

カナビスの罰則強化を公式に表明

正気を失ったゴードン・ブラウンとジャッキー・スミス


リファー・マッドネスに罹ったブラウン首相

Source: NORML
Pub date: May 7th, 2008
It’s Official: Gordon Brown and Jacqui Smith Have Lost Their Minds
Author: Paul Armentano, NORML Deputy Director
http://blog.norml.org/2008/05/07/
its-official-gordon-brown-and-jacqui-smith-have-lost-their-mind/


本日、イギリスのジャッキー・スミス内務大臣 (若い頃はカナビスを吸っていた) が下院議会で、カナビスの分類をCからBに戻して少量所持の罰則を口頭の警告から最高5年の懲役にすると 表明 したが(YouTube)、現代のカナビス政策が、科学や理にかなった理由をもとに決定されていると誤って思っている人がいるかもしれないので、この決定の背景や流れを整理しておこう。

スミス内務大臣の発表は、昨年の6月にイギリスの首相に就任したゴードン・ブラウン首相の深刻な 「リーファー・マッドネス」 の影響を色濃く受けたもので、あらかじめ決められた台本通りに行われた。ほんの数日前には、ブラウン首相自らが、カナビス使用が 致死的な結果を招く 恐れがあり、若者たちにカナビス喫煙は 受け入れられない という メッセージを伝える ために、カナビスに対する罰則を厳しくする必要があると 息巻いて いる。

これとは対照的に、同時に正式発表された政府のドラッグ乱用問題諮問委員会(ACMD)の 報告 では、カナビスには 他の大半の違法ドラッグに見られるほどの健康リスクはなく、統合失調症のような 精神病のトリガーになることも余りない として、C分類のままに据え置くことを勧告している。この決定には、23人の委員のうちの圧倒的多数の20人が賛成している。

諮問委員会のメンバーは、スミス氏やブラウン氏とは違って科学者を中心とする専門家で構成され、科学的観点からイギリスのドラッグ政策の評価を担ってきた。今回も含めて、諮問委員会がカナビスの法的分類を C分類にすることを勧告 したのは、この6年間で3回目のことになる。しかし、そうした中で、今回イギリスの首相らが委員会の勧告を完全に無視する暴挙に出たのは、彼らの既定方針通りで特に驚くほどのことでもなかった。

イギリスのカナビス政策議論についてあまり知らない人にために、その歴史を簡単に振り返っておくと、イギリスでカナビスがアンフェタミンなどと同じB分類から、ステロイドなどと同じC分類に ダウングレード されたのは2004年1月のことで、軽微なカナビス事犯は逮捕されることもなく口頭での警告だけになった。その結果として、


実際、全国警察署長協会(ACPO)は、現在の政策が期待どおりの成果を上げているとして、議会がいかなる決定を下しても、軽微なカナビス事犯を逮捕するために時間や経費の浪費することを拒否するという 声明 を今月の始めに出している。


以上のような背景や流れを全体の構図としてまとめると次のようになる。

ゴードン・ブラウン首相は、カナビスで死ぬことがあるのでカナビス・ユーザーをカナビスによる死から遠ざけるために刑務所に入れておきたいと望んでいる。だが、カナビスで直接死亡した人はいないことはよく知られたことで、ブラウン氏の主張は警察でさえつき合えきれないないほど 荒唐無稽 だ。

また、ジャッキー・スミス内務大臣は、カナビスを使っていると気が狂うとして、だからそれから守るためにカナビス・ユーザーを刑務所に入れておきたいと望んでいる。彼女は、かつてカナビスを吸っていたが、今ではイギリスで最も力のある女性政治家になっているわけで、これもやはり気が狂ったせいなのだろうか?

一方、ドラッグ乱用問題諮問委員会は、ブラウン氏とスミス氏の分類アップグレードの要請が現実の科学よりも デイリー・メールのようなタブロイドのイエロー・ジャーナリズム に基づくものだと考えている。これに対して、イエロー側は、文字どおりカナビスのことを色眼鏡でしか見たことのない人たちを前面に押し立ててカナビスの悪害を言わせ、専門家たちこそ 「何も知らない」 のだと捲し立てている。

科学と合理性が尊ばれるはずの2008年という今日でさえ、現実のカナビス政策はこのようにして決められている。

今回のACMDの報告書:
ACMD: Cannabis: Classification and Public Health (2008)

ジャキー・スミス内務大臣の分類変更理由:
Home Secretary: Cannabis should be reclassified

ジャキー・スミス内務大臣の議会での説明は、YouTubeの ビデオ でも見ることができる。説明にあたっては、たまに顔を上げて遠方の外れた方向を虚ろに見たりもするが、もっぱら下を向いて原稿ばかり見ている。人に納得してもらおうとするような説得力ある説明ではなく、実際には自分の主張に自信がない様子が感じられる。

ジャッキー・スミス大臣は、カナビスを厳罰化しなければならない根拠として、現在のカナビスが精神への悪影響が大きい「スカンク」で、それが市場の8割を占めるようになって危険が飛躍的に増大しているからだと盛んに力説している。

しかし、今回発表されたACMDの報告書に掲載されているTHC含有量の調査とオランダの調査を比較してみると、イギリスのシンセミラのTHC含有量は10〜14%で、オランダの18%よりも随分低いことが分かる。

もし、イギリスのスカンクで精神病になるのなら、オランダはそれ以上に精神病になった人が多くなるはずだが、そのような報告は全くない。また、オランダ政府の医療カナビスのベドローカンはTHCが18%で、とても医療には使えないことになるが、実際には精神病の問題などは出てきていない。こうしたことから、スミス大臣の主張は全く根拠を欠いていることがわかる。


ACMD: Cannabis: Classification and Public Health (2008)



The Netherlands Drug Situation 2006  (Trinbos)


また、この2つの表の比較でとても興味深いのは、イギリスのハシシや従来のハーバル・カナビス(マリファナ)のTHCがオランダに比べて圧倒的に低いことで、特にハシシについては産地がモロッコなどに限られている点では両国とも同じでありながらも、最終的には全く違った製品になっていることがわかる。

イギリスの場合は、ハシシは ソープバー とも呼ばれ、非常に多くの化学物質や薬品類が混ぜられていることが知られている。また、粉状のマリファナについてもハーブなどが混ぜられている可能性が高いが、それがTHC含有量の低さにつながっていると考えられる。

この点では、スカンクのシンセミラ・バッズは植物の穂先の形状を保っており、一般的に異物混入のリスクが低い。また、カナビスは、吸いながら摂取量を簡単に自己調整できるので、効力が強ければその分だけ吸う必要量が少なくなる。つまり、スカンクのほうが、異物が混入されたTHCの低いソープバーやマリファナよりも安全性が高いということができる。

イギリス政府は、「スカンク」 という一部の品種で使われていた言葉を70年代のものとは全く種類が違うカナビス全般を指す一般名詞として位置付けて、20〜30倍も強力だと説明してきた。

1930年代にアメリカでカナビスが禁止されるときに、それまで広く使われていたカナビスという言葉を使わずに、ほとんど知られていなかった 「マリファナ」 という非常にローカルな言葉を持ち出してきてリーファー・マッドネス・キャンペーンで弾圧を始めたが、今回の 「スカンク」 の場合も全く同じで、新語設定は、権力者が社会をコントロールしようとするときの常套手段になっている。現在では、「スカンク」 をさらに 「スーパースカンク」 と呼んで印象を特殊化するようになってきている。

しかし、こうした言葉を多用していると、ブラウン首相やスミス大臣のように幻想だけがどんどん肥大化して、ありもしない恐怖に自らが怯えることになる。かつては、「リーファー・マッドネス」 はカナビスを吸って狂った人のことを指していたが、現在では、カナビスを吸っていない人が罹る病気になっている。

ゴードン・ブラウンのような一個の人間の倒錯した頭から発散される幻想が国の行方を決めてしまうのは誠に恐ろしいといわねばならない。以前どこかで、彼がカナビスへの対応は自分の 「信念」 だと語っていたが、しばしば信念とは無知の裏返しでもあり、今回のことはそれをよく表している。

今回の内務大臣の分類変更決定は、正式には議会の承認を受けてから効力を発揮することになる。予想では2009年の始めになると見込まれているが、果してブラウン政権がこのまま権力を維持できるのかという懸念もささやかれている。

それは、以前から支持率が急激に低下していたのに加えて、5月始めに行われた全国統一地方選挙で歴史的な大敗を喫して、地方議会の勢力では第3党にまで凋落し、さらには、ロンドン・オリンピックを控えたロンドン市長の座も奪われて、首相としての求心力が急激に失われてきているからだ。2010年まで政権の期限があるとはいえ、総選挙を経ていない首相がそれまで存続することは難しいのではないか。

さらに今回、科学に基づいた勧告を無視したことで、ブラウン首相の意思決定に大きな疑問と不安が出てきた。すでに昨年末の世論調査でも、首相としての役目を十分に果していないと答えている人は58%に達している。

イギリス・ブラウン首相、カナビスの分類再見直しを表明、B分類へ戻して罰則強化を  (2007.7.18)
専門家、カナビスの分類変更に反対、罰則強化策には科学的根拠なし  (2007.7.27)
統合失調症の政治学  (2007.8.18)
イギリスの2研究、高効力スカンクの蔓延説を全面否定  (2007.9.17)

イギリスの専門家、カナビスの再分類は無意味  (2008.1.6)
イギリスのカナビス分類見直しはアルコール政策失敗を隠す煙幕?  (2008.1.15)
イギリス政府諮問委員会(ACMD)答申、カナビスはC分類に据え置くべき  (2008.4.3)

イギリス・ドラッグ乱用諮問委員会、答申無視すれば辞任すると抗議  (2006.1.14)
イギリス、政争の具にされた精神病問題