From Hempire Cafe

職場でのドラッグ・テスト

Source: Transform Drug Policy Foundation
Pub date: March 2004
Subj: Drug Testing in the Workplace
Web: http://www.thehempire.com/index.php/
cannabis/legalise_cannabis/drug_testing_in_the_workplace


職場のドラッグ・テストに関するイギリスの独立調査機関 (The Independent Inquiry into Drug Testing at Work) が18ヶ月に及ぶ調査をまとめ、2004年に104ページのレポートを発表した。

レポートでは、ドラッグ・テストが先行しているアメリカの過去の経験を吟味して評価を行い、それに基づいてイギリスでの賢い取り組みを提言している。ここではそのレポートの要点を抜粋して取り上げる。

レポート全文は次のサイトから入手可能。
http://www.ukcia.org/research/DrugTestingInWorkplace.pdf


背景

アメリカでは職場でのドラッグ・テストは普通のことになっているが、イギリスに政策決定にたずさわる上層部から、イギリスの会社でももっと広く取り入れるべきではないかという打診があった。イギリスの職場で働く人の大多数は精神作用のある何らかのドラッグを使っていると思われる。そうしたドラッグには、合法的なものも、違法なものも、あるいは処方医薬品があるが、どれも職場の安全や働く人の作業能力に影響を与える可能性がある。

まず重要なことは、ドラッグ・テストが本当にそうした悪影響を軽減するのに役立つのかという点にある。ドラッグ・テストを実施するあたってはその信頼性に厳しい疑問の声がある。個人の市民としての自由が侵害されるのではないか? テストに陽性反応が出た場合に会社はどう対処すべきか? この報告書は、そうした重要な疑問に光りを当てて情報を提供することを目的としている。


識者の見解

労働衛生レビュー誌ジョン・バーランド編集長。

「私には、職場でのドラッグ・テストが適切なものだとは思えない。雇用側は、職場でのドラッグやアルコール問題に対処するためにドラッグ・ポリシーを導入しなければならないが、問題のある人へのアプローチは理解のある支援的なものでなければならない。」 (労働衛生レビュー誌、1998年3月11日号)

「職場のドラッグ乱用の問題に対処するのにドラッグ・テストが最適だとしても、その効果や倫理的な側面については十二分に議論され尽くされなければならない。」 (労働衛生レビュー誌、1994年1/2月号)

「昨年のILOのドラッグとアルコールに関するカンファレンスでは、一部の専門家から、テストの実施で職場のドラッグ乱用が減るかどうかについては科学的な研究がなく、それに見合う価値があるのか疑問の声が上がった。」 (労働衛生レビュー誌、1994年3/4月号)


市民の自由に対する侵害

個人のプライバシーに正当な理由なく侵害するのは法的に許されるのかという疑問や、データ保護や提出尿サンプルの取り扱いに関する疑問もある。この周辺の問題については、昨今の人権保護法の趣旨との関連で訴訟に持ち込まれる可能性もある。


検査の限界
  • アメリカでは1992年に2200万人に対してドラッグ・テストが実施されているが、控えめにみても5%が擬陽性となっている。このことは、110万人が判定の誤りで解雇されたり仕事を失う可能性のあることを意味している。

  • 誤判定の中には、マリファナ検査でイブプロフェンが陽性になったものもある。その他でも、パーキンソン病のデプロニールがアンフェタミンの陽性になったり、ソルパディンのようなアヘン系の鎮痛剤がヘロインの擬陽性になったり、また、ケーキに使うケシの実もヘロインの擬陽性になったり、コカ茶がコカイン陽性になったりする例が知られている。

  • アメリカでは、ドラッグ・テストで陽性になって捕まった人の65〜90%がカナビス関係だと見積もられている。

  • 職場のドラッグ・テストでは、犯罪法で要求されている分析過程の管理や2種類のサンプル採取、配下にないラボでも検査といった厳格な要件を満たしていない場合も少なくない。


ドラッグ・テストで何がわかるのか?

ドラッグ・テストで、仕事をきちんとやっているか、あるいはサボっていることがわかるのだろうか? 重要なこととして、ドラッグ・テストの陽性反応からは職場での能力低下を指摘できないという事実がある。
  • ジョージア電力会社のドラッグ・テストで陽性になった従業員たちは、会社の平均に比較して最高度の昇格率を持っていた。また、マリファナのみに陽性になったグループでは、平均に比較して長期欠勤者の割合が30%も低かった。

  • 仕事の遂行に支障が出るのはドラッグばかりではなく、身体あるいは精神の疾患、睡眠不足、ストレス、トラウマなど多くの原因があるが、特定のドラッグに対する尿検査からはそうした他の要因を検出することはできない。


効果的な職場の運営方法
  • NASAが宇宙飛行士やパイロットの仕事の遂行能力の判定に使っているようなコンピューター支援パフォーマンス・テストのような器具と通常の業務査定や監督を組み合わせれば、理由の如何にかかわらず、従業員が仕事に適しているかどうかをもっと効果的に知ることができる。

  • 従業員支援プログラムを用意して信頼のなかで話し合える機会を設ければ、仕事に影響するような感情・健康の問題やお金の問題などとともにドラッグ乱用問題に直面している人たちを救うことができる。訓練を積んだ専門家たちがどのような支援が適切かを決めて、スタッフ・サポートやAAミィーテイング (同じ悩みを持つ人だけの話し合い) などを実施することもできる。いずれも、要は、罰則に基づいたものではなく、リハビリと健康を目標に据える必要がある。

  • 安全が重要な仕事などドラッグ・テストの必要性がある場合は、きちんと従業員にその正当性を雇用契約書において告知し、広範な能力評価をしっかり行っておく必要がある。


結論要約
  • ドラッグやアルコールの使用が、職場に深刻で広範な悪影響を及ぼしているとまでは言えない。

  • 事業主は、新人あるいは在職中の従業員のプライベートな行動には直接関与すべきではなく、ドラッグ・テストを実施すること自体が個人の自由に対する侵害行為になることを認識しておく必要がある。

  • 職場での違法行為や酔っぱらいといったことは例外で、仕事によっては、著しい悪影響をもたらすことがある。

  • 違法ドラッグだからといって、必ずしも合法ドラッグよりも職場に対する悪影響が大きいことにはならない

  • ドラッグ・テストを広範囲に拡大すると、しばしば、従業員や雇用主あるいは社会全体にとって大きな経済的・社会的負担を発生させて、ネガティブな結果を招くこともある。

  • ドラッグ・テストは法的根拠や検査結果について曖昧な部分がある。

  • 健康や安全目的のためならば、ドラッグ・テストを実施するよりも実施しないほうが好ましい。

  • ドラッグやアルコールに対するポリシーは、懲罰的なものではなく健康や福利を土台としたものでなければならない。

  • ドラッグ・テストは、よいマネージメントを実行するにための手段とはならない。