多様なハシシ・メーキング

火で調理したものを食べるというのは他の動物には見られない人間特有の習性だが、煙を好んで吸うというのも人間だけのものだ。何千年も前にカナビスが最初に食用として利用されたのは滋養や油に富んだ種だっただろうが、葉なども食べたかもしれない。だが、種には薬効成分THCがほとんど含まれておらず、またTHCを含む葉などでも特別な調理をしない限りその効力を引き出すのは難しい。

やがて、葉を煙にして吸えば薬効が引き出せることが発見されたが、薬効の成分だけを取り出そうとして花の部分の樹脂がその源であることを知るにはそれほど時間はかからなかったに違いない。その時からハシシの生産が始まった。

樹脂だけを抽出し固めることで効力を強化したハシシは、小型で可搬性のある高価な商品となっていった。その歴史はマゼランがヨーロッパにアメリカ・インディアンが使っていたタバコをもたらし世界に広まっていった中世時代よりもはるかに古い。

ハシシの原料は植物の花の部分、いわゆるバッズに生えているトリコーム・ヘアだ。

この部分を拡大してみると、水泡のような頭を持った腺毛がたくさん出ている。ヘアの形状にもいくつかの種類がある。


The Botany and Chemistry of CANNABIS, Joyce & Curry, Churchill London



The Great Books of Hashish, Cherniak, And/Or Press California

最も原始的で素朴な樹液採取法は手もみで行われる。この方法が有効なのは腺毛の発達するインドやネパールなどのカナビス・インディーカで、繊維用に栽培されるカナビス・サティバでは難しい。ネパールは緯度的には熱帯に位置するが、最も高度が高く太陽に近いヒマラヤで栽培・生産されるロイヤル・ネパール・ハシシは、その祈りのような採取法とともに最も崇高なハシシとされている。

モロッコ のカナビスはインドやネパールほど腺毛が発達しないので、ふるいにかけてポリネート・パウダー(ポルーン)として採取する。ふるいには細かいメッシュの布が使われバッズをこすりつけてトリコームをはがし落とす。このパウダーはキフとも呼ばれ、圧縮すれは簡単にポルーン・ハシシができる。このハシシはロイヤル・ネパール・ハシシに比較すると粒子が粗く軽量で茶色ほい。ポルーンとはもともと花粉のことだが、昔のヨーロッパ人はこの粒子を花粉だと勘違いしていたと言われている。


ミラ・ジャンセンの3大発明

ここ10年で、ふるいに変わって電動のポリーネート・マシンが使われるようになった。これは1994年にオランダのハシシ・ヒロイン、ミラ・ジャンセンによって開発されたポリネーターで、これで作られたハシシはポリネーター・ハシシともいわれる。

ついで1998年、ミラによってアイソレーターと呼ばれる新しいハシシ製造法が開発された。この方法は、THCの含まれる樹脂が水に溶け出さないという性質を巧みに使い、カナビスを氷水のなかで撹拌・冷却してトリコームを剥がし、粗いメッシュのバッグと密のメッシュのバッグを2重にして、細かいトリコームだけを分離する。これを圧縮して固めたものはアイス・ハシシとも呼ばれ、THCが50%を越えるものもある。

さらに2005年、ミラはアイソレーターの撹拌法を改良しバブレーターを発明した。小型の洗濯機のような構造で、ピラミッド型のメッシュ袋のなかに材料を入れて「洗浄」し、撹拌を素早く簡単にできるようにした。

近代的なハシシ製造法を確立したミラ・ジャンセン。彼女の発明は数々の賞に輝いている。



アムステルダムにあるミラの会社ポリネーター・カンパニーには膨大な資料やサンプルが展示販売されている。


http://www.pollinator.nl/