樹脂の生成とカナビノイド

translated and arranged from
MARIJUANA Grouwer's Cuide, Capter 2.3
Mel Frank & Ed Rosental


多くの人が、カナビスの効力が樹脂の量と比例していると思っている。しかし、実際には、樹脂に富んだ植物の効力がそれほどでなかったり、逆にあまり樹脂がないのに効力が強いことも少なくない。これは、効力が樹脂の量ではなく、第一に、そこに含まれるTHCの量に依存しているためだ。

カナビスが生成する樹脂のなかにはカナビノイド以外にもたくさんの物質が含まれている。ハシシやガンジャ製品では、およそ全体の3分の1が精神作用とは無縁な水溶性物質や細胞の破片で、さらに3分の1が精神作用を持たないフェノールやテルピンポリナー、グリセリド、トリテルピンなどのエッセンシャル・オイルやステロース、油脂、炭化物などで構成され、カンビノイドは全体の3分の1から4分の1以下に過ぎない。


カナビノイドの遺伝的性格

さらに、カナビノイドの中でTHCが占める割合は植物の遺伝的性質によって大きく異なる。現在では、シード・バンクの充実でさまざまな種類がハイブリッドされ、室内栽培で多様な環境での栽培が可能になったために、カナビスの地域差は余り意識されることはないが、カナビスの元来の性質を考えるには、自然の中で遺伝を繰り返してきた植物の地域差データを見ておく必要がある。

ハシシのTHC%、CBD%の範囲
地域 THC CBD
ギリシャ 1.0 - 15.8 1.4 - 11.1
ネパール 1.5 - 10.9 8.8 - 15.1
アフガニスタン 1.7 - 15.0 1.8 - 10.3
パキスタン 2.3 - 8.7 - 6.8 -

この表からは、同じ地域のハシシでもTHCの量が数倍から十数倍も変化することがわかる。もちろん植物の栽培方法やハシシの製造法による違いもあるだろうが、それだけではこれほどの差が出てくるとは考えられず、もともと種の遺伝的なバリエーションには相当の広がりがあることをうかがわせる。

ハシシの3大主要カナビノイドの平均構成%
地域 THC CBD CBN
アフガニスタン 52.0 36.0 12.0
ビルマ 15.7 16.3 68.0
ジャマイカ 77.5 9.1 13.4
レバノン 32.2 62.5 5.3
モロッコ 55.0 34.2 10.8
ナイジェリア 53.7 9.3 37.0
パキスタン 35.7 48.3 16.1
南アフリカ 75.6 8.4 16.0
(行合計=100)  

上の表は、地域によってカナビノイドの構成比が非常に異なることを示している。現在、一般的に言われていることは、自然環境下では、インディカ種はもともと熱帯地方の限られた地域でしか成育せずTHCとCBDが同程度にできる。一方、サティバ種は赤道から極北までひろく成育し、熱帯ではTHCの割合が偏って高く、緯度30度付近で同程度になり、北になるにしたがってTHCが少なくなってCBDの割合が偏って増えていく。

いずれにしても、カナビスの成分カナビノイドはその同族体の数が多いというだけではなく、構成比率もさまざまなバリエーションがあるということがわかる。つまり、カナビスの効力は、樹脂の量だけではなく、そこに含まれるTHCの構成比率に大きく影響される。

栽培している人は環境を変化させてカナビノイドの生成を促すことができるのを知っているが、特定の操作でカナビノイド成分構成を変えることはできない。THCの構成比率はおもに遺伝的性格によって決まっており、栽培環境を調整してもあまり変わらない。遺伝特性を変えるには、いろいろな遺伝特性の種子を交配させて品種改良するブリーディング技術が要求されるので、通常の栽培では樹脂量の増大という量的課題がその中心になってくる。


腺毛とその種類

カナビノイドは植物の体内を流れるようなことはなく、ゴムやカエデやイチジクのように乳液を外部に浸出させて取り出すようなことはできない。カナビノイドの80から90%が植物の外皮に生える樹脂腺毛で生成され、そのままそこに蓄えられる。従って腺毛のない種子や根にはカナビノイドは存在しない。腺毛の形状や数はカナビスの種類によって変化し、一般に効力の強いものほど数が多く形状も大きい。


The Botany and Chemistry of CANNABIS, Joyce & Curry, Churchill London

腺毛の形状は多種多様だが、基本的には3種類のタイプに分けることができる。最も小型のものは円形の突起形をしたもので15〜30ミクロンしかなく、肉眼では見えない。根元は1〜4個の細胞で構成され、それに同数の細胞が頭として乗っている。頭の細胞は外皮のキューテクルに包まれ、内部ではカナビノイドを含んだだオイルが生成される。腺毛が成熟するとオイルの圧力で外皮は乳首のように盛り上がる。この型の腺毛は植物表面全体に分布している。


Marijuana Botany, Robert Connell Clark, And/Or Press

第2の型は第1の型よりも少し大きく数も多い。この腺毛は「球頭」といわれる球形ドームの頭を持っている。未成熟の状態では柄は見られないが、成熟するとドームの下には細胞1から2段程度の柄が土台として形成される。球の大きさは25から100ミクロンになる。 頭部は通常8個から最大16個の細胞で構成され、外側の球形の幕に囲まれた内部でカナビノイドを含んだ樹液を生成する。成熟時の樹液は80〜90%がカナビノイドで、残りはおもに芳香エッセンシャル・オイルで構成されている。

第3の型は、長い柄を持ったタワー型の球形ドームで、開花期に初めて形成されてくる花の部分に見られる。最も成長すると柄の長さは150から500ミクロンに達する。

この型の腺毛は、メス花が種を覆って保護する包葉に最も密集している。また、効力の強いカナビスでは花に隣接する小葉にも多くみられる。上部の小葉には少ないが、下部の小葉の葉脈の表面に沿って最も密集している。肉眼で見られるのはこの型の腺毛だけで、高倍率のルーペでは柄の部分と頭部がはっきり区別できる。 腺毛は、オスでも花のガク片に見られるが、メスの包葉に比べると小さく密生度の低い。また、オス花の葯では割れ目に沿って大きな球形腺毛が見られるが、粘性で葯の開閉を調整していると思われる。


Marijuana Botany, Robert Connell Clark, And/Or Press


クリトリス・ヘア(鍾乳体)

腺毛は開花期になるまではほとんど目には見えないが、茎や葉柄や葉によく見られる白い毛は、腺毛ではなく、クリトリス・ヘア(鍾乳体)で、多くの植物と同様に炭酸カルシウムやケイ酸塩でできている。先が尖がりで昆虫などの外敵を寄せつけず、炭酸カルシウムで動物にはまずく食べにくくする働きをしている。毛は常に成長方向を向いているという特徴がある。


腺毛の形成

カナビスの植物の樹脂そのものはそれほど目立つものではなく、油分が植物をコーティングしているような状態ではなく、むしろ葉のなかに閉じ込められている。日光の具合で樹液が光ったりすることもあるが、通常は手で触ったときに粘りつくことで初めてわかる。上質なカナビスを産する植物では、樹脂は、開花の終末期で種が付く頃になってはっきりと確認できるようになる。しばしば、腺毛の頭部の膜の小さな穴から樹液が洩れ出してくる。


Marijuana Botany, Robert Connell Clark, And/Or Press

通常、樹液が侵出してくるまでには、腺毛の柄が形成されてからでも何週間もかかる。腺毛の頭部の樹液がたまる腺細胞は、当初、空(空胞)になっていて柄と頭部の細胞に埋没している。腺細胞は分泌が始まるとドーム状に膨れ上がり、終わると機能を停止して萎み、腺毛の頭と柄とトリコームがくっつきあって花全体が粘っほくなる。

植物のほかの組織にも若干のカナビノイドが存在している。大半は小さな単細胞の中にあり、伸びた乳管[laticifer ]に貯えられている。乳管は分岐してシュートに発達し、光合成で出来た糖などの水溶液が移動する通路である篩管へ伸びて行く。おそらく篩管内にある凝集した樹脂の塊は乳管からの沈澱物だと思われる。しかし、カナビノイドの90%以上は腺毛の部分に極在していて、他の部分はそれほど多くはない。


カナビノイドの生合成

カナビノイドの生成は、主に、腺毛の頭部と柄の先端の細胞で行われ、乳管などの他の組織の細胞はカナビノイドの前段である単純な分子の生成に関与していると考えられている。植物の生合成でカナビノイドが作られる仕組みについては、1946年に初めてその全体像が提唱され、1960年代にはその過程が実験室で化学的に確かめられたの次いで、1975年になって植物上でも確認された。

上の生合成図で特徴的なのは、すべてのカナビノイドの左側の環(芳香リング)に水素に代わってカルボシキリ基(COOH)になっていることで、例えば、THCは酸の形態THCAになっている。CBDなども同様でCBDAの形をしている。生きた植物の中での生合成は、基本的にすべて酸の形態で行われる。

興味深いことに、THCA自体は精神活性を持っていない。つまり、生の植物をそのまま食べてもハイにならない。しかし、刈り入れ後の後処理過程や吸うときの燃焼過程で容易にカルボシキル基の脱炭素反応が起こり、炭酸ガス(CO2)と水に分解し、水素だけが残って活性のあるTHCへと変化する。

カナビノイドの生合成の起点になるCBGA(カナビゲロール酸)自体は、テルペン基を含むもっと単純な化合物から生成される。図の例では、ゲラニルピロリン酸というテルペン基とオリベトール酸が化合してCBGAになる。植物内のすべてのCBGAがこの方式だけで生成されているのかどうかははっきりしないが、ほとんどがそうであることに変わりはない。
(カルボシキリ基を持った THC-COOH という物質も知られているが、これはTHCを摂取した後で体内で生成される代謝物で、カルボシキリ基の位置がTHCAとは異なる。THC-COOHは不活性だが体内での残存期間が長いので、ドラッグ尿テストでは最も主要な検出対象となっている)


カナビスのエッセンシャル・オイル

テルピン類は極めて軽く、植物内で作られた「エッセンシャル・オイル」が蒸発して茎を通して供給される。エッセンシャル・オイルは、風味や香りの元になっている油分で、カナビスからは30種類以上が見つかっている。その一部は、光や空気に晒されるとポリマー化して樹脂やタールになる。

カナビノイド自体には匂いはなく、植物が発する甘く独特のミントのような香りや風味は、テルペン・アルファ、ベータ・ピネン、リモネン、マイレシン、ベータ・ファランドレーンといった5種類の物質がもとになっている。これらの化合物はエッセンシャル・オイル全体のわずか5〜10%でしかなく、揮発性ですぐに空気中に発散して消失してしまう。そのために刈り入れた植物からは徐々に甘味や香りがなくなっていく。

エッセンシャル・オイルは腺毛の頭部に存在し、最盛期には樹液の10〜20%になるが、刈り入れて乾燥させた新鮮なカナビスでは全体の0.1〜0.3%程度で、カナビノイドの重量に比べても10%ぐらいでしかない。またわずかながら乳管のなかにも見つかっている。

エッセンシャル・オイルの構成は植物ごとに異なっている。このことは植物の多様性からすればごく自然なことで、カナビノイド構成の多様性に通じている。これは、エッセンシャル・オイルのなかに見つかっている物質がカナビノイドの前駆物質になっていることからもわかる。

しかし、植物の独特の香りがカナビノイドの構成に関係している可能性もあるが詳しくは知られていない。カナビスを扱っている人たちが香りで判定しているのは、効力ではなく主にその鮮度で、それからカナビノイドの劣化の程度を知るためだ。


何故カナビノイドを生成するのか?

カナビスは何んのためにカナビノイドや樹脂をつくり出しているのだろうか?  腺毛の微細構造と樹脂の複雑さを考えると、植物がカナビノイドをつくり出すために相当のエネルギーを費しているはずだ。明らかに、カナビノイドは単純な生成物でも何かの老廃物でもない。

カナビノイドと樹脂がいろいろな役割を担っていることは疑いないが、日光や湿度などの非生物的環境因子に比べれば生物的な要因に大きな係わりがあると思われる。カナビノイドや樹脂やその関連物質は、生物学的には複雑で高活性で、特に、草食動物や病原体、他の植物との生存競争などから自己を守る化学防衛物質として機能している。植物がカナビノイドを生成するこうした利点としては次のようなものが考えられる。
  1. カナビスは、明らかに、多くの動物にとって精神的・生理的に影響があり、このことが食用動物が、特に花の部分を食べたがらないようにしている。

  2. 多くの鳥類はカナビスの種子を好んで食べるが、未成熟な種子は食べない。これはそれを覆うカナビノイドの豊富な包葉を敬遠しているためだと思われる。

  3. ハチなどの昆虫は花粉に引きつけられるが、腺毛はオス花では葯の部分で、メス花では包葉の部分で最大になり、カナビノイドや樹脂が花粉を食べにくくしている。

  4. テルピンやフェノール類は種子の発芽を抑制させる働きがあるので、カナビスの樹脂が生存競争をしている他の植物の発芽を抑えることになる。

  5. 多くのカナビノイド (CBD, CBG, CBC とその酸) には強い抗生作用があり、さまざまなバクティアに対して抵抗力がある。また、生の樹脂は、殺菌性は低いが回虫にも抵抗力がある。
いろいろな説明の中には、樹脂でコーティングして、日光や熱や乾燥などの物理的な条件から植物を守るためという意見もある。だが、植物があらゆる気候で育つことを考えれば説得力に乏しい。

確かに、腺毛や樹脂は物質的には、花粉を捕らえ粘着したり、食用に不向きにしたりして植物の役に立っている。また腺毛の頭部は、種子の発達に合わせて強い日光を吸収したり反射したりする働きもある。例えば、初期段階の腺毛は透明で紫外線を吸収するが、これは紫外線による突然変異のリスクを弱める働きがある。

しかし、いずれにしても、樹脂の化学的な機能特性からすれば、こうした物理特性は二次的な説明にすぎない。また、カナビノイドが何故カナビスだけでしか生成されないのかを植物防衛上の理由だけで説明しても説得力に乏しい。