ヒートアップする

オランダのカナビス政策議論


コーヒーショップはオランダ全国に700軒
HighLife Guide

Source: Drug War Chronicle, Issue #564
Pub date: 12 Dec 2008
In Holland, Cannabis Politics Heats Up
Author: Phillip S. Smith
http://stopthedrugwar.org/chronicle/564/holland_cannabis_coffee_shops


オランダでは30年以上も前から、正式には違法であるもののプラグマティックな「寛容」政策のもとで、コーヒーショップでのカナビスの個人向け少量販売が認められてきた。しかし最近、特にこの政策を支持する人たちにとっては、コーヒーショップの上には暗雲が立ちこめてきたように見える。

コーヒーショップの数は、1995年には1500軒であったものが、政府の締め付けで今日では700軒余りまで縮小している。意見の違いは多少あるものの現在の政権もコーヒーショップには敵対的なスタンスを取っている。

また、ベルギーとの国境の街からはコーヒーショップを全面閉鎖するというニュースや、アムステルダムではショップ数を20%減らすことになったといった寒々しいヘッドラインも踊っている。


陰鬱な空気はどこにも漂ってはいない

ロイターやAP通信は折に触れてこうした成り行きを伝えているが、しかしながら実際には、そこに描かれているような陰鬱な空気はどこにも漂ってはいない。

確かに、オランダのカナビス政策は転換点にあり、従来のやり方はさまざまな圧力を受けてはいるが、最終的には、コーヒーショップをすべて閉鎖して禁止法に戻るのではなく、カナビスの生産と販売を統合した合法システムを構築する方向に進む可能性のほうが大きい。

オランダの現在の政権は、全議席150のうち、キリスト教民主連盟(CDA、41議席)、労働党(PvdA、33議席)、キリスト教連合(CU、6議席)の3党連立政権になっているが、キリスト教関係の2党は基本的にドラッグに反対で、特にコーヒーショップを毛嫌いして閉鎖を求めている。

しかし、3党の中でもコーヒーショップ問題に最も熱心に取り組んでいるのは労働党で、カナビスにもあまり敵対的ではなく、小売販売だけではなく生産の規制管理についても受け入れる姿勢さえ示している。

コーヒーショップにまつわる一連の問題については、キリスト教系の2党はモラルをベースで頑なに反対しているにに対して、労働党や野党各党はもっとプラグマティックに議論をしている。


バックドア問題

コーヒーショップをめぐる最大問題は、いわゆる「バックドア」と呼ばれる問題で、カナビスの小売販売は容認されている一方で、コーヒーショップへカナビスを供給する卸売が禁止されて犯罪の世界に取り残されたままになっていることで、システム的な一貫性が確保されていない。

野党の民主66党(D66、3議席)のボリス・ファンデル・ハム議員のジョースト・スネラー秘書官は、「確かに、コーヒショップの周辺にはいくつか問題がありますが、そのほとんどはカナビス栽培をめぐる曖昧さに起因するものです。コーヒーショップ自体の問題ではありません」 と言う。

「バックドア問題は、ただ政策的にそのようしたからそうなっているだけの話です。ですので解決策は単純で一つしかありません。バックドアでの取引を合法化して、ソフトドラッグのサプライチェーン全体を規制管理することです。もちろん、カナビスの販売もライセンスで管理する必要があります。」

野党第1党の社会党(SP、25議席)のフェルツェ・ファン・クリスタ議員も、「コーヒーショップ・システムは、確実にハードドラッグの売人に接触することなしにカナビスを入手できるわけですから、ソフトドラッグを販売してその取引を管理するには非常によい方法です」 と同調している。

また、現在のコーヒーショップ容認政策も暫定措置としては悪くはないが、カナビスの流通取引全体を規制管理する単純なアプローチがベストだとも指摘する。

「オランダ国民のソフトドラッグ使用率は周辺諸国の人たちに比較して高くはありません。いずれにしてもカナビスの使用はなくなりませんから、違法にしたところでうまく行くわけでもありません。ですので、合法化してしまえばいいのです。そうすれば合法的な仕事も生まれますし、税金も入ってきます。品質コントロールもできます。大きなお金が動くようになりますから警備保障の仕事さえも必要になってきます。」

1983年からマーストリヒトでコーヒーショップを経営し、現在では市内の14軒のショップのの代表を務めるマーストリヒト・コーヒショップ協会のマーク・ジョセマン会長は、「カナビスの生産、消費、販売に透明性を確保することが唯一の解決策です」 と言う。

「バックドアを規制管理することで、カナビス栽培での品質をコントロールして、普通のコーヒー店と同様に課税することができます。一部には、「ドラッグフリー」な世界が実現できると信じているモラル至上主義の政治家もいますが、機能することが証明されている現在のソフトドラッグ政策を捨ててしまうことなどまったく理解できません。」

(オランダ全国には、マーストリヒトと同様な協会が8地域にあり、それらは全国コーヒーショップ協会(LOC)に統合されている。LOCには、オランダの全コーヒーショップの3分の一が加入している。)


ドラッグ・ツーリスト問題

コーヒーショップをめぐるもう一つの大きな問題は、国境の街の抱えるドラッグ・ツーリスト問題だ。カナビスに抑圧的な近隣国からの際限のないツーリストの流入で、国境の街の中心部では車の渋滞で悲鳴を上げ、違法駐車や立ち小便などの迷惑行為、さらに、ツ-リストを相手にハードドラッグを密売するディーラーが出現して悩まされている。

ベルギーとドイツに国境を接するマーストリヒトは、毎年膨大なドラッグ・ツーリストが訪れてこの問題に悩まされている。マーク・ジョセマン会長は、「マーストリヒトのコーヒーショップを訪れる外国人カナビス・ツーリストは全体の43%ですが、この問題の最善の解決策は、ベルギーとドイツ政府が、ハードドラッグに接触することなしにカナビスだけを安全に購入できる場所を責任を持って確保することです」 と言う。

「われわれの側でも、特に外国からのコーヒーショップ訪問者のために一部のコーヒーショップを郊外に移転することを考えています。」

ファン・クリスタ議員も、国境の街のコーヒーショップを通常のツーリスト・エリアから移転することを提唱している。「コーヒーショップを訪れる人はカナビスを手に入れることが目的ですから、普通は市内の美しい地区を見てまわったりしません。ですから、郊外や産業地区に移転しても何の不都合もありません。」


政府の停滞に高まる栽培の全面的合法化議論

確かに、政権内でもコーヒーショップ問題についてはいろいろと議論されてはいるものの、2007年に連立政権が誕生した際には、2010年の政権終了時まではコーヒーショップ政策を現状のままで変更しないという連立協定が3党間で結ばれたという経緯がある。

この連立協定は各党間のイデオロギーの違いを取り繕うために方策だったが、その結果として、政府が公式に取りうる唯一の政策が中高等学校の250メートル以内のコーヒーショップを閉鎖するように各自治体に要請することだけに制限された。

だが、実際にコーヒーショップを閉鎖する権限は地方自治体当局だけが可能で、連立政権内のコーヒーショップを敵視する勢力に比較すればずっと穏やかな対応を取っている。

ベルギーのアントワープからオランダの展開を観察しているENCODのジュープ・オーメン代表は、「結局あと何年間かは、オランダ政府はカナビス政策の責任を地方レベルに押し付けるつもりなのです」 と言う。

そのような中で、地方自治体はコーヒーショップとその周辺を取り巻く問題に毎日毎日対応を迫られて、オランダの中途半端なカナビス政策から派生している実際的な問題をプラグマティックに解決するにはカナビスの栽培の全面合法化が必要だという考え方への支持が増えてきた。

一方、この10月には、外国人ツーリストの多量流入に音を上げたベルギーとの国境のローゼンタール(人口8万人、ショップ数4軒)とベルヘン・オプ・ゾーム(6.5万人、4軒)の市長が、来春までにすべてのコーヒーショップを閉鎖する計画を発表した。

だがこれが誘い水となって、アイントホーフェンの市長は、コーヒーショップ・システムの外側で行われているカナビスの違法栽培や取引が多くのドラッグ・ツーリズム問題を引き起こしているとして、市がカナビスを公式に栽培してコーヒーショップへの供給体制を整えることを提案している。


さまざまな動きの背景にあるもの

また、11月13日には30余りの自治体の市長が集まって 『カナビス・サミット』 が開催されるまでになった。そこでまとめられた声明で市長たちは、「単純で透明な政策を採用して、ヨーロッパ諸国の政府とも協力できるようなコーヒーショップへの合法的な供給システムの確立」 を呼びかけた。

この提案にはローゼンタール市長やベルヘン・オプ・ゾーム市長も署名しており、両市のコーヒーショップの閉鎖計画が単に文字通り閉鎖すると言うよりも、現在では国会の努力を求めることのほうに力点が置かれていることが明らかになってきている。

ENCODのオーメン代表も、「閉鎖するという宣言することと実際に閉鎖することの間には壁があることを見逃してはなりません」 と指摘する。

「ローゼンタールもベルヘン・オプ・ゾームもすべてのコーヒーショップを閉鎖すると発表していますが、目標期間が余りにも短か過ぎますから、実際にはどのように展開するのかを見なければなりません。オランダの行政管理要求はがちがちに官僚化していることで有名ですが、そのことでショップのオーナーはプロセスを遅くできる可能性もあります。」

また、アムステルダムでは、コーハン市長が学校の250メートル以内に隣接するコーヒーショップ(全体の20%)を閉鎖すると発表して国際的な注目をあつめたが、オーメン代表はこれも同じことだと言う。

「市長は、実際には2年後から閉鎖を開始するとも言っているのです。これは、総選挙が2年以内に実施されることになっているのと偶然に一致しているわけではありません。市長の声明は、国の議院たちに明確な意思決定を迫って責任逃れできないようにするためだと見る人たちもいます。」

ファン・クリスタ議員もこれに同調して、「コーハン市長が国際的にも有名なブルドック・コーヒーショップの閉鎖を言っているのは、議論をより明確にするためです。実際、この発表によって議論の焦点がはっきりと浮き彫りになったわけです」 と語っている。


キリスト教政党の恐ろしげな不協和音もプラスに作用

こうした市長たちの反応は、連立政権党の首脳からコーヒーショップの全面閉鎖の話が出たときも同じだった。11月8日にキリスト教民主同盟(CDA)の議員代表であるピーター・ヴァン・へール議員がコーヒーショップの閉鎖に好意的な見方を示したが、間髪を入れずに連立のパートナーである労働党(PvdA)の拒否反応を目覚めさせ、市長たちの行動に拍車をかける結果になった。

D66のスネラー秘書官は、「これも同じケースです。今年は、市長たちが議論を主導していることが特徴なのです。市長たちは、制限を課されることには何でも反対するいつもの条件反射でそうしているわけではないのです。彼らは、本当に栽培を合法にして規制管理することが最善の道だと考えているのです」 と話している。

オーメン代表も、キリスト教政党から出てくる恐ろしげな不協和音はたぶんプラスに作用していると言う。

「右側からの圧力は、議論を呼び覚ます結果になっています。そして議論が深まれば深まるほど、全面的な禁止よりも合法化して管理するほうがよりよいオプションであるという結論になっていくのです。」

「将来、キリスト教民主同盟が加わらず、アメリカや国連からの過度の圧力を跳ね除ける政権ができれば、それに向かって重要なステップが踏み出されることになるはずです。」


ハーグ・カナビス民衆法廷

12月に初めには、ENCODとアムステルダムのカナビス・カレッジ、オランダ・ドラッグ政策ファンデーションの共同主催で、今年の動きを総括するようなハーグ・カナビス民衆法廷が開催された。この法廷では各政党に対して、「カナビス禁止法はポジティブな影響よりもネガティブな悪影響のほうが大きい」 という見方を反駁するように挑んだ。

この挑戦を受けて立った議員は、キリスト教民主同盟でドラッグ問題の広報を担当しているシスカ・ヨルダースマ議員だけだったが、彼女の議論は証拠に裏付けられていない意見だけをベースにしたもので、法廷の裁判長を務めたライデン大学のヘンドリック・カプタイン法学教授からも、「詭弁」 であり 「全く価値がない」 と切り捨てられた。

また、「不必要なドラッグ戦争に多額の税金が浪費されている」と主張するオランダ警察協会の前所長で合法化支持者のハンス・ファン・デューイン氏との対決に至っては、ヨルダースマ議員は何の反論も行わずに口をつぐんでしまった。

法廷の主催者たちは、オランダのどの政党も禁止法を維持しなければならない利用を説明できなかったとして、国会で早急にカナビス禁止法について議論する必要があるという結論を出した。


2010年以降に期待

オランダの現状はここまで進展し、議会の一部からも議論がわきだしているが、連立政権がカナビス政策については取り上げようとする気配は見られない。その結果、少なくとも2010年までは、議論の主導権は市長や関心のある政党の手に委ねられることになる。

次の総選挙では、カナビス・フレンドリーか、または少なくともカナビスに中立の立場をとる政権に置き換わるチャンスもある。そうすれば、世界に知られるオランダの寛容政策が拡大して、カナビス産業全体を包み込むようになるに違いない。


コーヒーショップ数の変遷
マーストリヒト市のコーヒーショップ政策、カナビスとコーヒーショップに関する13の誤解と1つの結論

ハーグ・カナビス民衆法廷2008 カナビス禁止法の終結を勧告  (2008.12.5)
カナビスを守るために戦うアムステルダム  (2008.12.4)
オランダのカナビス需要 栽培面積で200万平方メートル  (2008.12.1)

オランダ市長の『カナビス・サミット』 犯罪組織によるカナビス供給の遮断を  (2008.11.24)
アムステルダムのコーヒーショップ 学校隣接の43店舗を閉鎖へ  (2008.11.21)
オランダの市長 半数以上がカナビス合法化を支持  (2008.11.19)
オランダ与党CDA議員代表 コーヒーショップの全面閉鎖を主張  (2008.11.10)

オランダ国境の都市がドラッグ・ツーリスト対策サミットを計画  (2008.10.29)
オランダのカナビス生産 年間500トン25億ユーロ、輸出が80%  (2008.10.20)

バックドア問題は、1970年代にコーヒーショップが認められて以来ずっと続いてきた問題ではあるが、その内容については現在と当初では大きく変化している。

オランダで本格的にシンセミラの栽培がはじまったのは、ワーナードがオランダで最初の公認コーヒーショップである「メローイエロー」を火災で失ってからアメリカにわたり、シンセミラの専門家のオールドエドをオランダに連れ帰った1980年以降のことになる。


オールド・エドとワーナードは1980年に、アムステルダムのワーナードの家の裏のビニール温室を使ってオランダで最初のシンセミラを栽培した。


それまでのカナビスはモロッコなどから密輸したハシシがほとんどだったが、政府はコーヒーショップを認めてもハシシの密輸まで認めるわけにはいかず、バックドアを解決できなかった。

しかし、1980年代半ばからはシンセミラの自給が可能になって輸入問題は自然消滅してしまった。このために、バックドア問題もさほど深刻な問題ではなくなった。

だが、最近では大規模な犯罪組織が栽培を手がけるようになって、オランダの高品質のカナビスが大量に輸出され、再び深刻な問題が出てくるようになった。

ダッチ・エクスペリエンス: 第4章 シンセミラ・ゲリラ と アメリカ・コネクション 1979-1997
ダッチ・エクスペリエンス: 第5章 コーヒーショップ の バックドア