統合失調症が13%減る?

カナビスが統合失調症を引き起こしているとすれば、もしカナビスを完全に追放できればどれだけ統合失調症が減らせるのかという疑問が出てくる。この問題に言及している論文とすれば、オランダの研究 と スエーデンの研究で13%という数字が上げられている。また、その他にも、ニュージーランドの研究に8%という数字もある。

13%という数字は非常にインパクトがあり、あちこちに引用されている。さも、カナビスがなくなれば統合失調症全体の13%が減るかのような印象も受けるが,当然、減る可能性があるとすればカナビス・ユーザーにかかわる部分だけに限定される。それを考慮して計算してみると、実際には見かけほどインパクトのある数字とは言えないことがわかる。

スエーデンの論文には、13%の根拠として、「調査の結果を考慮して、人口全体のカナビス経験率が50%で、統合失調症のリスクが30%増えるとすれば」 という仮定条件の説明がある。つまり、この数字は机上の数字ということになるが、一応、これをもとに、通常の統合失調症の発症率を1%として、1000人当たりで計算してみると、ノンユーザーの発症者数は500*0.01=5人、ユーザーの発症数者は500*0.013=6.5人で、全体とすれば11.5人になる。


つまり、カナビスの影響が無くなって減る人数は1000人中1.5人(0.15%)ということになる。しかし、この変動幅(0.15%)は、通常の統合失調症の発症率の変動幅(0.7〜2%、1000人中7〜20人)の中に埋没してしまうほど小さく、統計的に明確な差があるとはとても言えない。しかも、統合失調症のリスクグループは未成年なので経験率が50%というのは余りに大き過ぎるが、30%とすれば1000人中1人以下になってしまう。さらに、リスクグループの世代構成を10%とすれば、全人口1000人あたりでは0.1人以下という数字になってしまう。


有り得ない仮定をもとにした詭弁論法

また、このスエーデンの研究では、カナビスが統合失調症を引き起こす原因になるという因果モデルを前提にしているために、いつのまにか、「統合失調症患者の13%はカナビス・ユーザー」 と言われることもある。実際にはどの研究も相関関係を示しているだけでこれまでに因果関係が証明されたことはないが、因果の有無の論点を回避した上で 「カナビスがなくなるとすれば」 という仮定計算の結果が、さもカナビスが原因で統合失調症が増えたという理由に使われて、有り得ない仮定をもとにした論点回避の詭弁論法になっている。

もしこの論法が成り立つのであれば、アルコール、タバコ、脂肪の多い食事、婚姻外出産、過重労働、いじめ、貧困などを除去できれば発症率が何%下がるかも計算できることになりそうだが、研究者たちはなぜかそのような計算はしようとしてはいない。それを考えれば、カナビスについてだけ計算していることは、単にカナビスの悪害を印象づけることが目的で、あえて数字を 「作った」 ことが分かる。

いずれにしてもカナビスを根絶することなどは実際的に不可能であり、起こり得ないことを前提にした数字は単なるレトリックに過ぎない。人類がいなくなれば、人間の統合失調症もゼロになるともっともらしく言っているのとたいして変わらない。


因果モデルには十分な説得力がない

もともと因果モデルは十分な説得力を持っておらず、実際、ロビン・マリー(%を計算しているが) やメリー・キャノンといったこの分野の指導的専門家は、「カナビスは統合失調症の必要条件でも十分条件でもない」 と 表現 している。つまり、カナビスは早期・多量に使った場合、もともとに遺伝などの精神脆弱性を抱えている一部の人に偏って影響を与えるというモデルが最も合理性があると考えられる。

確かに、精神的脆弱性がある人ではカナビスを使わなければ発症の時期は遅れることも考えられるが、いずれは発症する可能性が高く、その場合ば、カナビスを除去したからといって発症率には影響しないことになる。

また、カナビスでうつ症状を上手にコントロールしている人もいることを示す 論文 や子供の精神障害がカナビスで改善した例なども知られており、もしカナビスがなくなれば逆に統合失調症の人が増える可能性もある。つまり、現実には、カナビスがなくなったとしても、統合失調症が単純に減るとばかりもいえない。

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