研究者はカナビスのことを知らない?
BC(Before Cannabis) と AD(After Dope)
ニュース記事や文献などを読んでいて、度々この研究者はカナビスのことを余り知らないのではないか、と思うことがよくある。当然のことながら、カナビスが禁止されている以上、研究者としては、少なくともおおぴらに試してみることはできないし、ましてはカナビスに嫌悪感を抱いている研究者なら自らカナビス・コミュニティに深く関与する機会も少ないに違いない。
カナビスに反対する当局者や研究者たちは、カナビスで問題を起こした人の方向からカナビスがどのようなものかを見るが、社会全体の方向からカナビス・ユーザーがどのような問題を起こしているか見る場合と全くベクトルが逆になっている。
だが、研究者なので、自分の患者や関係する資料や論文には日常的に触れているために、その方向から見た世界が実際のカナビスの世界をそのまま反映していると思い込んでしまうのではないか。(5人に4人、80%)
論文ではごく平均的な事例が取り上げられることよりも際立った例が報告される傾向があるために、論文だけに頼っていると見当違いを起こし、非常に稀な例だけが頭に残っていつのまにかそれを一般化してしまう。また、多くを実際の体験ではなく言葉を通じて知るために、例えば、僅かなカナビス使用でも「乱用」と呼び、節度ある使い方とあえて区別しないといった言葉そのものが持つネガティブな方向性に引きずられてイメージを形成してしまう。
当然のことながら、悪い印象ばかりの言葉で思考したり語ったりしていれば、現実とは似ても似つかぬ世界ができ上がってしまう。これは、何もカナビスに限ったことではなく、敵対する国の人たちを悪い面ばかりから考えているといつのまにか全員が野蛮な悪魔だと思い込んでしまうのと同じで、あちこちにみられる現象でもある。
オランダの研究者も当てにならない?
例えば、オランダ やドイツ でカナビスと精神病の関連を調査したことで知られるマーストリヒト大学のファン・オズ博士は、自分の研究の意味についてあちこちの新聞で語っている。
そこで彼は、カナビスの効力について、「オランダのカナビスはTHCの濃度が高く、一部の地域では20%を越えています。若者たちは、それが普通だと思っていますが、アムステルダムの年配のピッピーの多くは拒否してやりません。彼らが使っているのは、2〜3%のものです」 と述べている (カナビスが精神病のリスクを押し上げる)。
しかし、実際には、1970年代までのオランダのカナビスはほとんどが効力の強いハシシであり、アメリカのようなマリファナは必ずしも普通ではなかった (ハシシ25ギルダーください ダッチ・エクスペリエンス)。また、現在では、博士の言うような低濃度のカナビスはコーヒーショップでも売っておらず、拒否することさえできない。
また、彼は、強いカナビスが精神病に危険だとも盛んに語っている (カナビスと若年層の精神病リスク、強い証拠はないが、特定リスクグループで顕著)。しかし、彼の研究も含めて、カナビスの効力が精神病のリスクを上げることを示した研究は1つもない。それなのに、効力の強いカナビスは禁止すべきたとさえ言う。実際には、慣れたユーザーなら、効力の強いカナビスのほうが安全 なことを知っている。
オランダ人の著名なカナビス研究者が、この程度の歴史やユーザーの実態も心得ていないことにはいささか驚かされる。
カナビス・トリップを知らない(?)研究者
2005年3月、イギリスのダウングレード見直し議論の最中に発表され、見直し決定のダメ押しにもなったニュージーランド・クライストチャーチの研究に対しては、研究者たちは、普通のカナビス・ユーザの経験について十分に分かっていないという強烈な方法論的な非難を浴びた。
研究では、実際にはカナビス・ユーザーに対する精神病の診断は行われておらず、10の精神病的な症状を列挙したアンケート調査で、被験者にそれぞれの経験の有無を尋ねて統計的に分析している。いくつかの質問は、「他の人には聞こえていない声を聞いたことがありますか?」 とか 「誰かが自分の思考をコントロールしていると思ったことはありますか」 といったもので、明らかに誘導的で問題を含んでいる。
そのほかの質問もこれほど露骨ではないが、他人から信用されていないように感じたことがあるか、他人に監視されたり噂されたりしていると感じたことがあるか、他人に親近感を抱いたことは全くないか、自分の考えや信念が他人と共有できないと感じたことがあるか、といった具合になっている。
だが、長くカナビスを使っているユーザーなら、特にバッド・トリップ中に質問のような体験をしていてもごく普通のことで、ポイントが高くなっても不思議はない。また、使用期間が長くなればなるほど体験のバリエーションも増えてくるのでポイント数も上昇する可能性が考えられる。このような状況があるにもかかわらず、論文では、被験者にカナビスを使っている時かそうでない場合かを区別するように注意を促したかどうか明示されていない。
また、仮りに症状が長期的影響によるものだとしても、カナビスを使う人にとっては全く普通の反応でしかなく、研究者たちは、精神病の兆候がカナビス以外の状況によっても起りうることを考慮していないように見える。例えば、違法で社会的に嫌われているドラッグを使っている人が、「他の人に受け入れてもらえないという思いや思い込みを持って」 いたとしても、それは精神病の兆候とはとても言えない。むしろ、自分の置かれた状況を現実的に見ている理性的な反応だということができる。
研究を指導したファーガソン教授は、これに対して、社会的な冷やかな目に影響されていると言っても 「カナビス使用と精神病の症状の関連については、オランダのようなリベラルな国でもそうでない厳しい国でも同じような傾向が見出されており、そうした影響があるはずだという指摘は必ずしも当たっていない」 と反論している。
だが、この説明は、実際の調査では、この問題を十分に考慮していなかったことを明確に示唆している。何故なら、オランダなどの調査は、この長期研究が始まったずっと後に実施されたもので言い訳にはならないからだ。結局は、研究者たちが、実際にはカナビス・トリップがどのようなものかを言葉でしか理解しておらず、本当の体験については実感がなく、想像すら及ばなかったからではないか?
カナビスによる精神病、誇張と作り話 (2005/3/7)
カナビスへの恐怖は如何にして作られるのか、精神病問題と科学の歪曲 (2005/3/21)
バッドトリップも知らない(?)研究者
スイスの研究者たちは、血液中のTHCやTHC代謝物の濃度変化を調べるために、合成カナビノイドのドロノビノールを経口投与して実験 を行っているが、予想に反して8人のうち2人
が「カナビス急性精神病」になって驚いたとマスコミに答えている。
だが論文を読んでみると、「カナビス急性精神病」と呼んでいるのが、実は、翌日には症状が消えてしまう単なるバッドトリップであることがわかる。ドロノビノール(マリノール)の副作用については、1999年に発表された全米科学アカデミー医学研究所(IOM)の報告書にも、オーバードーズしやすく、使用した患者のおよそ3分の1に 「不安、離人症、めまい、多幸、情動不安、眠気」 などの副作用があると書かれている。このことすら研究者が知らなかったのだろうか?
また、研究者は20mgをマイルドな量と述べているが、ドロノビノール・カプセルが2.5mg,5mg,10mgであることを考えれば、決して少ない量とはいえない(マリノール 対 天然のカナビス)。 経口スプレー・サテベックスの場合でも、一回分(100μL)あたりTHC2.7mg、CBD2.5mgでしかなく、セサメット錠も、THCは1錠中1mgしかない。
さらに、被験者は、食用の未経験のオケイジョナル・ユーザーで、しかも尿テストで前回のカナビスが完全に体外に排出されている確認も受けている。セットとすれば「慣れていない」状態になっている上に、セッティングでは、1時間ごとに血液を採取されて、その間には自動車のシュミレータ・テストも受けなければならないという最低ともいえるトリップ環境で実験が行われている。
カナビス・コミュニティでは、経口投与ではバッドトリップしやすいことやセットやセッティングが大切なことは常識なので、研究者たちのカナビスに対する認識がこの程度しかないのかと逆に驚かされる。というよりも、そもそも、本当はバッドトリップがどんなものかさえよく理解していないのではないか?
研究者の無知と見当違い
こうした専門家のカナビス・コミュニティに対する無知と見当違いについては、コーヒーショップのグル、ノル・ファン・シャイクが、オランダのカンビス人口の調査研究を例に、次のように皮肉をまじえて書いている。
「1999年1月5日付けのテレグラフ新聞にオランダのポット・スモーカーは30万人しかいないと掲載されていた。アムステルダム大学の教授の指導で行われた調査の結果だった。・・・にわかに信じられなかった・・・こんな人数ではコーヒーショップの家賃すら払えない・・・
私は、ローリング・ペイパーの販売数をリズラに電話で聞いたところ、オランダには100万人のスモーカーがいて70万人がリズラを使っているとのことだった。また、販売に使う小物ポリパックのフューチャー・バッグにも電話したところ、アムステルダムの5人に1人がジョイントを常用していると主張していた。
私はレポートの掲載元のテレグラフ新聞にファックスした。返事がきて、フューチャー・バッグとリズラに取材を始めたと書かれていた。その結果が1999年1月9日の記事になってテレグラフに載った。見出しは「わが国のスモカーは最低でも70万」となっていた。記事によると、専門家であるフューチャー・バッグとリズラと私の意見と計算による、と書かれていた。
大学の調査には30万ギルダーが費やされたそうだが、私の調査は数本の電話とファックスだけで約1ギルダーだった。」(オランダのポット人口 ダッチ・エクスペリエンス)
吸うべきか吸わざるべきか
ハーバード大学医学部精神医学名誉教授のレスター・グリンスプーン博士は、カナビスの分野では最も知られた精神科学者のひとりで、時代を画した数々の著作で知られている。しかし、博士がどのような経緯でカナビスと係わりを持ち、生涯の研究対象として取り組むようになったかは余り知られていない。
博士が、まだ精神分析医になりたての1960年の始めには、やはり、カナビスが精神に悪い影響をもたらすと考えていた。しかし、そうした情報を集約した文献が見当たらず、自分でまとめることにして、いろいろな文献を読んでみると、当初思っていたカナビスの姿とは全く違うことに気がついた。
そのことをまとめて、カナビスを擁護する解説記事を1969年のサイエンティフィック・アメリカン誌12月号に発表したところ大反響が起こった。次いで、1971年には「マリファナ再考」という記念碑的な本を発表し、アメリカを代表するカナビスの研究者となった。
しかし、意外なことに、博士自身はカナビスを経験したことがなかった。議会などで証言を求められることが分かっていたので、隣人からすすめられても全部断っていた。自分でも、精神病でなくても精神分析医にはなれるのだから、実際にカナビスをやったことがなくてもカナビスの研究者にはなれるはずだと思っていたという。
しかし、議会の証言では、カナビスを擁護する自分に対して、議員たちはカナビスの経験があるのかを問い詰め、結局、「ない」と答えれば内容が信用できないと言われ、「ある」といえば吸ったことを糾弾されることに気づき、遂に、カナビスを吸う決心をした。
友人たちのパーティーで、ジョイントを自分にも回してくれるように頼んでみんなにびっくりされたが、期待していよいよ吸ってみると・・・何も効かない。回りのみんなは十分効いているからと言ってジョイントをパスしてくる。それでも効かない。終いには、こんなはずはないと思って落胆した気分になった。
次のパーティでも同じだった。カナビスに対する今までの自分の思い込みが間違っていた。あせらずやっていれば、そのうち分かると気持ちを切り替えて、何度か続けた。すると突然、息子のかけていたビートルズのサージェント・ペッパーが初めて音楽として「聞こえた」。このカナビスの初体験を後にジョン・レノンに話したところ、カナビスは聞くときだけではなく、作詞や作曲するときもとても助けになると教えられた。
やがて、カナビスの体験を通じて、自分の精神分析の仕事と患者のことを深く考えるようになって、精神分析という手法が精神病の治療に役に立たないと思うようになる・・・( To Smoke Or Not To Smoke: A Cannabis Odyssey)
BCとAD
博士の息子さんは、博士のカナビス体験の前と後の時代を、BC(Before Cannabis)-AD(After Dope)と表現している。それほどカナビスの体験には決定的な力があることをよく表している。
確かに、カナビスを体験したことのない研究者を、そのことだけで軽んじるべきではないことは当然のこととはいえ、BC時代のグリンスプーン博士の思い込みのことを見ると、カナビスの研究者が実際にカナビス経験してADになっていれば、研究の取組や見方も相当違っているのではないかとも思える。
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