よく出てくる数字




1.  6倍、600%

6倍という数字は、「カナビスで精神病になる率が6倍に増える」 というように、カナビスと精神病問題を扱った記事で最もよく出てくる代表的な数字になっている。この数字の出処になっている
論文 は、1987年に発表されたもので、現在では、調査方法にさまざまな不備があることでも知られている。

この調査では、スエーデン新兵4万5570人を対象に、入隊時(平均年齢18才)でのカナビス使用状況を自己申告させ、15年後に統合失調症の発症具合を調べている。その結果、15年後には、カナビスを使ったことのない人に比較して、50回以上のヘビー・ユーザーの場合は6倍になった、としている。

しかしながら、この研究では、調査時点が15年も離れているのに、その間のアルコール、アンフェタミンやLSDなどを始めとする統合失調症を起こすとされる他のドラッグ使用やカナビスの使用状況の変化などの調査が行われておらず、また、統合失調症を、診断ではなく精神病院の入院歴でカウントしているという問題もある。

こうした批判に対して、2002年に、同じチームがデータから問題のあるケースを取り除き、新たなデータも加えて再分析を行った別の論文を発表している。結論では、「カナビスの使用は精神病を発症するリスクを高めるという一貫した因果関係が存在する」と前回の同じようになっているが、内容的にはかなり異なり、新たな問題点も指摘されている。

とは言え、カナビスに反対する人たちは、現在でも繰り返しこの研究を引用し続けている。さすがに、イギリスのリシンクのような分別のある団体では6倍という数字までは使っていないが、例えば、Schizophrenia.com という統合失調症全般の情報を扱った大きなサイトでは、カナビスのこととなると途端に科学的批判精神を忘れて、6倍を600%増(正しくは500%と書くべきだが)と大きく見えるように表記し、グラフまで使ってこの研究をページのトップに掲げている。

逆にいえば、その後にカナビスと統合失調症の因果関係を主張する論文が多数出てきたにもかかわらず、今だこの論文に頼らなければならないほど、実際の論拠が弱いことを表しているとも言えるかもしれない。


2.  1.4倍、1.8倍、2倍、2.8倍、3.1倍、4.3倍

カナビスが精神病を引き起こすリスクとしては、上の6倍以外にもさまざまな数字がある。こうした数字のばらつきは、調査法や統計処理の方法などが研究ごとにばらばらで、統一がとれていないことが原因している。

逆に言えば、カナビス精神病を結びつける確固たる強い指標が存在しないことを反映している。反対派はとにかく大きい数字を使いたがるが、研究者たちの
統一的な見解 は、一応、2倍ということになっている。

また、2007年7月にランセットに掲載された最新の 研究 では過去に出された論文を総合的にメタ分析して、「カナビスの喫煙で精神病のリスクが41%増加する」 と発表している。

この論文では、統合失調症以外の精神障害を含めて「精神病」と呼んでいるが、これまでカナビスによる統合失調症リスクが6倍とか4.3倍、3.1倍、2.8倍、2倍、1.8倍などと言われてきたのに比較すれば、統合失調症も含めた精神病全体で1.4倍としており、従来よりもかなりトーンダウンしたものになっている。しかし、ヘビー・ユーザーに限るとリスクは2.19倍になるとしている。

しかし、実際には、2倍という数字 も統計的に余り意味ある数字ではなく、数字を強調するよりも、「若者の大多数は未成年期にカナビスを利用しても害を受けることはないが、害は精神脆弱性を抱えた少数の人に出現する。疫学エビデンスは、精神的に脆弱を抱える未成年に対して、特に早い時期のカナビス使用を思いとどませるように親や教師や保健指導者が強く働きかける必要があることを示している」 という程度の 見解 が支配的になっている。


3.  13%

13%という数字は、「カナビスを完全に追放できれば統合失調症が13%減る」 あるいは、「統合失調症の13%はカナビスが原因している」 という具合に、センセーショナルな新聞記事やカナビス反対派に好んで使われている。

確かにインパクトのある数字だが、実際には、この数字がどのようにして出てきたのか分かって使っている記事はないといってもよい。

この数字の出処や意味については、
統合失調症が13%減る? を参照。


4.  44.5%(約半数)

この数字は、
デンマークの研究 に出てくるもので、この研究を取り上げた記事では、カナビスで何らかの精神病的症状を見せた人のうち約半数(44.5%)が統合失調症に発展するとセンセーショナルに伝えている。

しかし、この研究は、病院に来た患者について分析したもので、カナビス・ユーザー全体ではなく、すでに何らかの異常を抱えている人が対象になっている。研究目的は、治療の参考にするために、来院した重い患者がその後どうなりやすいか調べたもので、一般社会のカナビス問題を扱ったものではない。

一般社会では、実際には人口の約20%が精神病的症状を持ちながらも治療を求める人は20人に1人しかいないと言われている。このことを母数として考慮すると、数字は途端に数%でしかなくなる。

実際、この論文では、そのことをきちんと意識しており、デンマークのカナビス誘発性精神障害は、10万人・年あたり2.7人にしかならないと指摘している。しかし、こうした背景を明示せずに報道すれは、専門家ではないごく普通の人の多くは、カナビスを使っていると半数が統合失調症になると誤解してしまってもおかしくない。


5.  4倍

この数字は、イギリスのカナビスのダウングレード見直し議論が沸騰した2005年の秋に出てきたもので、「政府がカナビスの分類をダウングレードして以来、カナビスの喫煙が原因となって精神障害を起こして治療を受けた子供の数が4倍も増えている」 と
サンデー・タイムスに報道された。

数字の根拠とされたのは、有数のドラッグ・チャリティであるアダックション(Addaction)の治療実績で、2004年4月から2005年の4月までに、精神病問題を抱えたカナビス・ユーザー1575人を治療し、そのうち181人が15才以下の子供で、昨年度よりも136人増えている。つまり、子供だけに関してみると、1年前は45人だったのに対してダウングレード後は181人に増加し、4倍になったとしている。

しかし、数字の根拠とされた当のアダックションは、この報道を 「曲解し、事実上間違っている」 と声明を出して否定している。

「カナビスに関連した精神病は大変深刻な問題にはちがいありませんが、先日のサンデー・タイムスに掲載された記事で、われわれアダクションの集計だとして引用された数字は全く根拠がなく、このような報道がなされたことも深刻な問題です。われわれは、サンデー・タイムズが、ドラッグ乱用諮問委員会の審議を直前に控えて、何らかの影響を及ぼしたいという意図があったのではないかと疑っています」 と語っている。

「もし、アッダクションがそのようなデータを持っていれば、すすんでドラッグ乱用諮問委員会に報告しています。・・・もし、本当に報道されたような証拠があれば、間違いなくすべての全国紙の一面で取り上げられているはずですが、われわれはそのような証拠は持っていません。」

「われわれが扱ったカナビスを使っていた1575人の若者の多くはアルコールなどの他のドラッグも併用しています。また、カナビスを使用していても、精神病問題の原因がカナビスとは関係があるとは思えない若者のケースも混じっています。」


6.  5人に4人、80%

この数字の元になったと思われるものは、オランダのチームが 
ドイツで行った研究 に対して、オーストラリアのアンドリュー・キャンベルという医師が学会誌に寄せたコネント((2004/12/7)が発端になっている。

その後、コメントを見たと思われる記者がインタビュー記事(2005.3.2)を作成し、さらにその後、イギリスでドラッグ乱用諮問委員会がカナビスのダウングレードを見直すかどうかの答申を間近に控えた時期に、別の記者が再度取材した際に、いつのまにか 「カナビスはヘロインよりも危険で、精神病になった5人に4人が未成年期にカナビスを常用していた」 というように発言がエスカレートしていった。(前のインタビューでは、ヘロインの話はなく、数字も70%と語っている)

キャンベル医師の調査というのは、自分の関係する医事審判所の医療施設に来たり、強制措置が必要とされた精神病患者を調べたもので、上にあげたデンマークの研究 の場合よりもさらに特殊な環境で、しかも10〜20年前の自己証言だけを頼りにしている。特に、カナビスを開始する前にすでに精神病が発症していなかったかどうか、あるいはその後に他のドラッグをやっていなかったかどうかなどの証言については、医事審判所に関係しているという事情から考えても著しくバイアスがかかっている可能性がある。

当然のことながら、きちんとした調査であれば、この発見は論文として通用するはずだが発表された様子はない。実際には、調査も不十分で交錯因子も考慮されいない相関関係でしかなく、つきつめて言えば、一医師の印象論に過ぎない。しかし、当人自ら好んでセンセーショナルに語り、特にオーストラリア・サウスウエールズの政治風土と結び付いて、科学者の意見として政治的に使われることを意識しているようにも思われる。

ただ、科学者としてのプライドも残っているようで、21才以上になってからカナビスを始めた人では、長期的な精神病になった人は見たことがないとも述べている。


7.  20倍

20倍という数字は、「現在のカナビスは、60〜70年代のマリファナよりも20倍も強力になって危険が増している」 というように、カナビスの危険性を指摘する反対派の常套句になっている。

20倍も効力が増えているのだから、なんとなく危険も増えるだろうという一般感覚によくマッチしているが、これは雰囲気だけの話で、実態は全然違う。効力は20倍も増えていないし、効力が高いから危険なわけでもない。

効力の強いカナビスほど危険? を参照。


8.  25%、10倍

この数字は、カナビス・ユーザーの遺伝子と精神病の発症率の関係を調べた
研究について報道した記事によく見られるもので、「カナビス・ユーザーの25%は精神病のリスクが10倍になる」 というセンセーショナルな扱いをされている。

このヘッドラインだけを読むと、カナビス・ユーザーの4人に1人は他の3人よりも10倍も精神病になりやすい、と思われてもしかたがない。しかし、それが事実だとすれば、社会全体でも目立つはずだがそれらしき報告はなく、当たり前の科学的批判精神の持ち主ならばどこかおかしいと感じてもおかしくない。問題は、10倍という数字が何の10倍なのかというところにある。

論文によれば、人間は誰でもCOMTと呼ばれる遺伝子持っているが、両親から半分づつ引継いだ配列の組み合わせとしてMet・Met型、Met・Val型、Val・Val型の3種類がある。それぞれのグループは25%、50%、25%の人口構成を占めているが、その中でもVal・Valグループが統合失調症になるリスクが高いことが知られている。

研究では、それぞれのグループについて、未成年のときからカナビスを開始した人と成人になってから開始した人を分けて、精神病的症状の発症率を比較している。その結果、Met・Metグループでは比率に目立った違いが見られなかったが、Met・Valグループではやや違いが表れ、Val・Valグループになると、未成年時に開始した人の発症率が成人してから開始した人よりも約10倍(統計補正をすると10.9倍)になった。

つまり、10倍という数字は、Val・Valグループ内での比率を表したもので、他のグループのユーザーとは何の関係もない。また、グラフを見れば,比率が大きくなっている理由が、Val・Valグループでは早期にカナビスを始めた人が発症しやすくなっている分だけ遅く始めた人の発症しにくくなっているという偏りのためだということが分かる。

不可解なことに、開始年齢が成人のグラフだけに注目すれば、統合失調症のリスクが高いと言われるVal・Valグループの人が最もリスクが低く統合失調症になりにくくなっている。結局のところ、Val・Valグループは、統合失調症になりやすいということなのか、なりにくいということなのか?

絶対数を考慮しないで少し強引だが、発症率を加算して比較してみると、Val・Valグループの発症率はMet・Metグループの1.75倍に過ぎない。もともとカナビスの使用には関係なく、Val・Valグループの人のほうが精神病を発症しやすいとすれば、早期からカナビスで欝などを自己治療する人もその分だけ多い可能性があり、単にそうした一般的な傾向を反映しているに過ぎないのではないか。

また、2007年10月には、COMT遺伝子とカナビス使用による統合失調症の発症は無関係とする研究も発表されている。(カナビスと統合失調症、COMT遺伝子は発症リスクに無関係


9.  16才、18才、21才

これらの年齢は、アルコールやタバコが解禁になる代表的な年齢で、国によって異なっている。一般に、ヨーロッパでは16才が多く、イギリスやドイツでは、弱いアルコール(ビール)もタバコも16才になっている。オランダでは、ビールは16才だが、タバコやカナビスは18才になっている。これに対して、アメリカでは年齢が高めに設定されており、アルコールは21才、タバコは18才のところが多い。

イギリスではパブ文化の歴史が古いために、親が子供をパブに連れていくことも多く、アルコールの習慣が子供のときから身につきやすいという環境が整っている。カナビスについては、コーヒーショップがないために若者の集まるパブを中心に流通しており、アルコールやタバコと同様に開始時期の低年齢化や併用のされやすさにつながっている。

普通のカナビス・ユーザーの場合は、一旦キマッたらそれ以降はやりたくなくなる。また毎日だと効き目が鈍く感じられるようになるために連用する人のほうが少ないが、精神脆弱性抱える未成年の場合は、カナビスの症状緩和効果に気づき、
特にアルコールを併用 していると、端から見ても多量に連用するようになる、とも言われている。

だが、子供が毎日のようにカナビスを使っていても、親たちは、アルコールやタバコと同じで余り注意を向けず、結果的に精神病の予兆を見逃す原因になっている。イギリスで、カナビスの精神病の危険性が特に強調されている背景には、親たちのカナビスに対するこうした無知と無念 がある。

ある研究者によると、精神脆弱性を抱えていない人が15才以上でカナビスによる統合失調症を発症したという例は報告されたことはないという。また、カナビスの危険性を大々的に警告している医者でも、21才以上でカナビスを始めた人で長期的な精神病になった例は知らない、と語っている。カナビスの合法化を主張しているグループは、どこも年齢制限とカナビスに対する教育の重要性を指摘しているが、こうした現実を反映している。

カナビスの規制・合法化に賛成、統合失調症患者の母親の訴え
カナビスが息子を殺した、だから合法化すべき、うつ病で自殺した息子を思う父親の訴え
国別アルコールの年齢制限、  国別タバコの年齢制限


10.  1%

統合失調症の発症率は、地域や性別差はあまりなく平均で約1%程度と言われている。より詳しくは、0.7%〜2%ということになっているが、いろいろ比較する場合には1%という数字が最も覚えやすいし使いやすい。

しかし、数字自体が小さいので、統合失調症の中で何かの比率を扱うときには、常に社会全体としてどうなるのかを意識していないと数字にダマされる。例えば、
リスクが2倍に増えるといっても、もとが1%ならば1%増えて増加率は100%と言うことになるが、仮に、もとが50%ならば1%増えても51%になるだけで増加率は2%に過ぎない。

実際に、カナビスと統合失調症の関連で出てくる比率は、たとえ数字が大きくても、社会全体とすれば統計的に余り意味を持たない場合がほとんどと言ってもよい。

リスクが2倍になるとどうなるのか? 、統合失調症が13%減る? を参照。