◆ 6.呼吸器に対する影響
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6. 呼吸器に対する影響

世界的に、タバコに次いで、大麻はおそらく最も一般に喫煙される物質であろう。タバコの中のニコチンと大麻の60以上のカンナビノイドを除いて、これら二つの物質からの煙は多くの同じ呼吸器刺激剤と発癌性物質を共有する。実際、マリファナの煙のタール相は、濾過されていないタバコよりおよそ50パーセント以上多い量の発癌性物質を有する(Leutchtenberger, 1983; Institute of Medicine, 1982)。

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6.1 組織病理学

初期の動物での研究は、大麻の煙への長期の高用量の曝露が実質性肺傷害を生じる可能性があること示した(Fleischman et al., 1979; Rosenkrantz & Fleischman, 1979)。後の実験的研究の調査結果は、高用量大麻の曝露が慢性閉塞性気管支炎の発生と関係しており、タバコの煙によって生じるような浸潤性悪性腫瘍の危険性を導くことを示唆する。大麻の呼吸への影響に関する縦断的研究において、総計1802人の大麻を喫煙している被験者が6年間追跡された。年齢、タバコの喫煙、調査に先立つ徴候の発生を調整した後(※訳注1:大麻曝露の有無と病気の発生との相関を見るために大麻以外の因子を調整している。)、この研究により'慢性的な咳'(RR of 1.73)'喘鳴'(RR of 2.01)の危険性が増加していることが分かった(※訳注2RR:Relative Risk 相対危険度のこと。コホート研究から導き出される指標。ある曝露因子により発病確率が曝露されなかった時の何倍になるかを示す。)。1年あるいはそれ以上にわたる1日1本未満の大麻タバコの消費と同程度低い曝露で、呼吸機能の有意な(※訳注3:統計学的に有意な)低下があった(Sherrill et al., 1991)。組織病理学的な変化は主に末端の気道に起こり、急性および慢性炎症、線維症、肺胞細胞過形成を含んだ(Rosenkrantz & Fleishman, 1979)。

霊長類について行われた、後の前向き研究は、例えば細気管支扁平上皮化生や細気管支周囲性/ 間質性線維症などのような変化を発見した。これらのsmall airway(細い気道)の変化の重症度は大麻の曝露の用量と期間に関連があり、煙への高い用量とより長い曝露はより大きな変化を導き、局所的な異型性を伴う異型細胞過形成も見られた(Tashkin et al., 1987)。

ヒトの研究において、長期の大麻喫煙に起因する主要な呼吸障害が気管と主気管支の上皮の受傷であることが示されている。ドイツで行われた研究において、T細胞リンパ球数が慢性的な大麻喫煙者でより低く、そのために、口腔と咽頭の扁平上皮癌を発達させる可能性が増加していることが判明した(Wengen, 1993)。動物と人間の研究の調査結果の違いは、おそらく、人間の観察が気管支鏡検査法によって行うことができる観察に限られているという事実によるであろう。 呼吸器症状がなかった若年成人について行われた人間の気管支鏡検査法研究は、重度の大麻喫煙者の間での上気道の組織学的変化の証拠を発見した。これらの変化には、基底細胞過形成、層形成、杯状細胞化生と基底膜肥厚が含まれる(Roby et al., 1991; Tashkin et al., 1987)。一般に行われた少数の調査は大麻とタバコの間に相加的な影響がないことを示す(Gil et al., 1995; Sherill et al., 1991; Tashkin et al., 1987)が、一つの研究、Tucson研究は、相加的な影響を示した(Bloom et al., 1987) 。しかし、追跡調査において、同じ相加的な影響は見つからなかった(Sherman et al., 1991)。相加的な影響がタバコと大麻の喫煙の間にあるのかどうかは未だに明らかではなく、そして、さらにこの問題を調査するためにより多くの研究が行われる必要がある。大麻の消費から生じている組織学的異常は、喫煙される巻きタバコ一本につき、タバコより深刻であった(Wu et al., 1988)。

死亡の時点で呼吸総体症状がなかった大麻喫煙者について行われる剖検は、細気管支周辺と肺胞腔の中の色素性のマクロファージによる局所的浸潤、肺胞壁の中の局所的線維症の形で変化を見つけた。この研究において、これらの変化へのタバコの相関的な寄与は1つのケース(タバコを吸わなかった人のではあるが)を除いて確信をもって突きとめることができなかった(Fligiel et al., 1991)。

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6.2 免疫防御

肺の中の感染に対する防御の重要な細胞である肺胞マクロファージは、動物とヒトの研究の両方において大麻喫煙によって損なわれることが示された。動物実験が大麻の煙の曝露の後でのマクロファージ数の変化を示さなかったのに対し、その次のヒトにおける、非喫煙者と大麻、タバコ喫煙者とを比較する調査では、常習的な大麻喫煙者の大食細胞の数の増加が示唆された(Wallace et al., 1994; Barbers et al., 1987; Barbers et al., 1991)。これは、おそらく、大麻の煙によって誘発される何らかの肺傷害に対する免疫学的な反応を反映するのであろう。影響は、タバコの消費から独立して存在する(Wallace et al., 1994)。

これらのヒトの研究において収集されたマクロファージは、おそらく細胞機能での障害を反映する、形態の変化を有する。細胞質内封入体内の形の大麻の煙からの残留する分子が、細胞代謝回転のプロセスの一部として次の世代のマクロファージの間で循環することがわかっている(Davis et al., 1979)。そして一方、大麻喫煙が食菌作用あるいは呼吸性バーストを変えなかったという提議がヒトの研究にあり、それはおそらく、摂取された有機体の破壊を損なった(Lopez-Cepero et al., 1986) 。マクロファージ損傷のメカニズムは、完全には解明されておらず、更なる調査を必要とする。これらの研究は、習慣的な大麻の消費が生物体への侵入に対する呼吸器の免疫反応を下げることを示唆する。さらに、大麻汚染の結果としての重大な浸潤性真菌感染が、エイズに冒された一連の患者を含む、免疫力が低下している個体の間で報告された(Denning et al., 1991)。

これらの調査結果は、長期間にわたる持続的な大麻の消費が気道損傷、肺炎症と感染に対する肺の防御力の損傷を引き起こすことがあり得ることを示唆する。性別、年齢、人種、教育とアルコールの消費のために調整された疫学的研究は、毎日の大麻喫煙者には非喫煙者と比較してわずかに高い呼吸器疾患の危険性があることを示唆する。

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6.3 肺生理学

ヒトにおけるいくつかの研究は、大麻喫煙と経口のTHCの急性の気管支拡張薬の効果を示した。これらの調査結果は、健康な人々と喘息の人々の両方で繰り返されました(Boulougouris et al., 1976)。しかし、気管支拡張薬としての大麻と合成カンナビノイドの潜在的な治療的な効果は、大規模に差し引かれた。

比較的若い人々における最近の2つの研究は、大麻とタバコ両方の非喫煙者と長期の喫煙者の呼吸器症状と肺機能を比較した(Bloom et al., 1987; Tashkin et al., 1988)。両方の研究において、重度の常習的な大麻の消費は、タバコの有無にかかわらず、非喫煙群に対して、慢性気管支炎の徴候のより高い有病率と急性気管支炎のより高い発生率と関係していた。

しかし、研究は末梢の気道抵抗に対する影響について一致しなかった。一つの縦断研究は、大麻の消費が大きな気道抵抗の増加とは関係していたが、慢性閉塞性気管支肺疾患または肺気腫の発達には関係していなかったことを示した(Gil et al., 1995; Tashkin et al., 1988)。他の研究は、常習的な大麻喫煙者の間で細い気道と肺胞の換気性の機能における著しい悪影響を発見した。影響は、少なくともタバコの消費の影響と同じくらい大きいものであった(Bloom et al.,1987)。最近の研究は、何らかの肺機能の損傷がタバコの消費の影響に対して相加的であるかどうかについて合意に達するすることもできなかった。大麻とタバコの間の損傷の部位と潜在的相互作用は、更なる調査を必要とする。

大麻の煙からの一酸化炭素の肺の吸収がタバコの煙からのそれと比較して比較的高いのに対し、重度の常習的な消費者へのこのことの影響は控え目である。これは、おそらく一酸化炭素のクリアランスの短い半減期と大麻使用の機会の間の比較的長い間隔を反映するものであろう。しかし、大麻喫煙者のカルボキシヘモグロビンレベルは、非喫煙者より高い;これは、組織の 酸素負荷に対するわずかな干渉に終わるかもしれない(Tashkin et al., 1988)。

二酸化炭素の再呼吸に対する換気性反応は、大麻喫煙の直後に、減少(Bellville et al., 1975)、増加(Zwillich et al., 1978) 、あるいは変化なし(Vachon et al., 1973)の異なる研究によって示された。最近、異なる作用強度の大麻喫煙に対する呼吸反応の制御のより詳細な研究は、常習的な大麻喫煙者について、中心あるいは末梢の換気性の推進力、あるいは代謝率におけるどのような大麻の急性の影響をも明らかにすることはできなかった(Wu et al., 1992)。

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6.4 発癌

呼吸器・消化器領域の癌の症例が若年成人において大麻使用の経歴と共に報告されている(Taylor, 1988; Fergusson et al., 1989; Donald, 1991)。多くのケースがアルコールとタバコもまた使用していた為に、因果関係の帰属は妨げられた。しかし、タバコを吸ってアルコールを飲む人々の間でさえそのような癌は60才以下の成人では珍しいので、これらのケースは特有の懸念である。そのような癌の症例対照と実験的研究は、慢性的な大麻使用の健康に対して起こりうる有害な作用の研究のための高い優先事項とされなければなければならない。

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