1.1 報告書の必要性
世界保健機構(WHO)の目標は、世界の全ての人々に可能な限り高いレベルの健康を増進することである。精神活性物質は、世界の全ての地域で、病弊や損傷の主要な原因であり、「すべての人に健康を」戦略の進行にとっての重大な障害となっている。
大麻(国際的な管理の下の精神活性物質)の使用は世界中の至る所で広範囲に普及している。大麻使用の、様々な介入についての損失と利益を含む、実際・潜在的な健康へ及ぼす結果についての信頼できる情報は、したがって、保健政策分析、および国際的・国家的なドラッグコントロール戦略の開発のために重要な情報となる。
このトピックに関する最後のWHOの報告書は、1981年にオンタリオのアディクションリサーチ財団と共同で出された(ARF/WHO Scientific Meeting on Adverse Health and Behavioral Consequences of Cannabis Use)。何年もの月日が経ったことによって、WHOの大麻使用に関する報告の更新について多くの要請があった。
これらの要請にに応じて、WHOは、1993年11月.ジュネーブで大麻に関する科学的な専門家のグループを召集した。この会議の参加者(付属書類1にリストされている)は、大麻使用の健康へ及ぼす結果についての更新された報告書が準備されなければならないことに同意し、そのような報告書を作成する2段階計画を採用した。最初に、科学者は様々なトピックについての主要報告書の形をしている広範囲な文献論評を作成するよう依頼され、これらは他の専門家によって精査された。主要報告書の著者およびタイトルは、付属書類2にリストされている。次に、これらの論評に基づいて概略報告書が、1995年5月22-24日からのジュネーブで開催された2回目の会議で、最初の専門家のグループによって草案化された。
概略報告書の草案は、WHOの薬物依存症とアルコールの問題についての諮問委員会に選ばれた科学者、WHO研究協力センター、同様にその他の科学者とWHO内の専門的な部署に回覧された。次に、その報告書は、これらの論評と概略報告書の適切な部分の著者との共同作業に基づいて改訂された。 現在の報告書は、このように世界の全ての地域の科学者および公衆衛生専門家からの情報提供に基づいた共同論評である。
1.2 報告書の目的および内容
この報告書は、大麻使用と健康に及ぼす結果についての現在の知識の論評および要約を提供し、政策立案家、公衆衛生職員、教育者およびその他の健康増進に関わる者にとって適切なものとなるであろう。この報告書は、通常、専門雑誌や学術論文、コンピューター化された文献サービスを通じて詳細な情報と研究にアクセスする研究者や臨床専門医向けの利用を意図するものではない。この報告書を準備する際に、可能なところで過度に専門的な用語を使用せず、あるいは専ら重要な参考書目の文書、過去15年間の知識の主要な変化とそれらの潜在的な含蓄を重視して知識を要約する努力がなされた。
過去15年にいくつかの領域には著しい進歩が確かにあった。そこに次のものを含んでいる:カンナビノイドの作用のメカニズムについての基礎研究、そのような作用の為に必要とされる分子構造、カンナビノイド分子を脳細胞および他の組織の部位に結びつける特定の受容体(レセプター)分子の発見、標準的にそれらのレセプター部位に作用する脳の中の天然の化学物質の発見、また脳内の様々な部分や身体の他の部位におけるレセプター部位のマッピング。呼吸器および身体の免疫系中の様々なタイプの細胞に対する大麻の影響を理解する際に、さらに重大な進展があった。大麻使用と統合失調症との間の関連のような問題および大麻依存の性質は、かなり明確にされた。対照的に、多くの他の領域では、理解に根本的な変化はなかった。これらの問題はすべて、この報告書の本文でより深く詳しく説明されている。
1.3 最近の情報の他のソース
この概略報告書の基礎として役立った主要報告書は、さらに詳述された情報、および個々のトピック上の参考書目をカバーするさらに完全なリストを含んでいる(完全なリスト 付属書類2を参照)。
さらに、大麻に関する多くの主な調査文献が過去数年間に現われ(例えばAlif&Westermeyer,1988;Hall et al.,1994;Mechoulam et al.,1994;Musty et al.,1991;Adam&Martin,1996)、これらの文献は、この報告書を準備する際に、考慮に入れられた。この報告書で議論された様々な問題についての詳細ははこれらの文献の中に見つけることができる。